第29章 捕われた子猫
どこかのホテルの部屋で目覚めて、しばらく経った。
いい加減同じ姿勢で椅子に座り続けるのも疲れてきて、ベッドで横になってしまおうか、と考えていた所。
部屋の外から物音がして、ついに部屋の扉が開けられた。
再度後ろに隠したペンをしっかりと、握りしめる。
開いた扉から部屋に入ってきたのは、金髪の外国人女性、女優のクリスヴィンヤード・・・つまりベルモット。
そしてその後ろから、物凄いオーラを纏った長身の男性が入ってくる。
昨夜、わたしも遠くからその姿を確認した男、ジンだった。
口のテープを剥がされ、皮膚がヒリヒリし。
寒くもないのに身体が小刻みに震え出す。
「おはよう仔猫ちゃん、会うのは初めてね」
「だれ・・・なの」
(一応、彼女達の事は知らないフリを徹する)
「本当に知らないの?まあ・・・安室透の仲間って所かしら」
「・・・安室さん、の?」
「そう。ちなみにあなたを攫ったのは安室透じゃないけどね、彼に変装した私よ」
「変装・・・?何が目的なんですか・・・わたし、お金も、何も、持ってない」
「それはコチラの台詞だ、女、お前は昨日の夜俺達に近付こうとしたんだろ?」
ジンがこちらに詰め寄ってきて、冷たくて低い声を頭上から浴びせられる。ほんとに凍りついてしまいそうだ・・・
「昨日・・・すみません、言われていることが、よく分かりません・・・」
「安室透にあの店に行けと言われたんだろ?」
「・・・?安室さんとそんな話は、してない、と思います」
「シラを切るつもりか」
「ですから・・・分かりません・・・」
俯き、自分の膝を見つめる。
でも、なんでここで零の話が出てくるのだ。
少し彼らはわたしから遠ざかり、何やらコソコソ話しているようで。少しイラついているようにも感じる。
それが終わったのか、再び冷たい声が降ってくる。
「おい女、安室透を呼び出せ」
「彼、私たちの電話に出ないのよ。大事な大事なあなたからの着信なら出るんじゃないかと思って」
まさか“人を呼べ”と言われるは思っておらず、返答に戸惑う。
零は組織から良からぬ疑惑をかけられているんだろうか。
スパイだと疑われているとか、張り込みがバレたとか・・・?
「・・・安室さんが何かしたんですか?」
「そんな事はお前には関係無い」