第29章 捕われた子猫
事務所の階段で気を失い、目が覚めたら知らない部屋の中だった。
痛む頭を抑えようと手を動かした瞬間、後ろ手に拘束されている事に気付く。
口にはテープか何かが貼られていて、声も出せない。
どこかのホテルの一室と思われるこの部屋には、わたし以外誰もいない。
立ち上がって入口のドアを開けようとしてみたけど、鍵が掛かってるのか、開かない。
窓も・・・元々はめ殺しの開かないタイプの窓みたいで。しかもすぐ隣に高層ビルが建ってて、外の景色のほとんどを見ることができない。
わたしをここに連れてきたのは、絶対に零じゃない。
零に変装した、ベルモット、だろうか。
どうしよう・・・
室内を見回すと、自分のカバンが置いてある。
後ろ手でカバンの口を開き、中を見てみるがスマホはやはり無い。
でも、護身用にと渡された例のボールペンは入っていて。
なんとかペンを足先で掴み取りカバンから床へ出し、後ろを向き手で拾い、握りしめる。
さてどうするか・・・
部屋の電話は、コードが抜かれ無くなっており、使用不能。
飛び跳ねて大きな音を出したり、水道の水を出しっぱなしにして水浸しにすれば、ホテルの人間が来てくれるだろうか。
でもそんな事してるのがホテルの人間よりも先にベルモットに知れたら・・・?大人しくしていた方が身の為か。
備え付けの椅子を部屋の隅へ動かし、入口の方を向いて座る。
ベルモットがここの様子を見に来たら、もしそれが彼女一人なら。
麻酔針を刺して、逃げれるかもしれない。
針を出した状態で、その瞬間を待ち構える。
でも二人以上で来られたら、わたしなんて格闘技の経験もない只の女な上に、手まで縛られてるんだから全く勝ち目は無いだろう。麻酔針は温存するしかない。
それはさておき、そもそもわたしは何故拘束されているのか。
宗介さんと会ったのがバレたのか。それともあのバーに行った事がバレたのか。でもそれなら、昴さんだって一緒に拘束されてもおかしくない筈だ。
昴さん、というか秀一さんは無事なんだろうか。まあ彼なら絶対大丈夫なんだろうけど・・・
考える事は山程ある。幸い、考える時間はたっぷりある。
ベルモットにされそうな質問、脅し、それに何と答えるのがベストなのか。
まだ少し痛む頭をなんとか回転させる。
ボールペンを握る手には、いつの間にか汗が滲んでいる。