第28章 烏羽色の尻尾
工藤邸に一人向かい、零から報告を聞く。
彼らの張り込み中、その店に出入りしたのは、酒屋の男とバーの店主だと思しき男のみ。
どちらも組織の人間では無いと思われるそう。
酒を配達に来た男の会社に侵入して、例のバーの鍵を手に入れる事はできそうだ。
そうして合鍵を作ったら、誰もいない時を見計らって店に入り、盗聴器やカメラを仕込めないか・・・
組織の人間が来店したとして、逮捕に繋げられる会話を録音する事ができたら・・・
零はそう考えているそうで。
でももしも盗聴がバレたら。近くに誰か潜んでいると勘ぐられるのは必至、張り込みは即時終了せねばならない。
組織の人間は、もうそのバーを使わなくなるだろう。せっかく手に入れた店の情報なのに、そこからそれ以上収穫を得ることはできなくなる。
実行するにしても、今すぐにすべき事ではない。もう少し様子を伺ってからからの方が良い・・・
まずはバーの経営者から調べるか・・・
そんなような話をしたと、ホテルに戻って秀一さんに伝える。
「合鍵は早めに作っておいても良さそうだな」
「犯罪ですよね・・・」
「それをやるのは日本の公安だろう?どうとでもなる」
「組織を潰す為ですもんね・・・」
「ああ・・・お前はもう風呂に入って少し寝ろ、朝方また工藤さんの所へ行ってもらわねばならんし」
「・・・秀一さんは?」
「俺は、かおりが起きている時に適当に寝る」
「そんなの悪い・・・」
「悪いと思うなら、さっさと寝て起きて、俺を早く休ませろ」
「はい・・・」
シャワーを済ませて、一人ベッドに入る。
隣に秀一さんがいないのは久しぶりだ・・・すぐ横の部屋に居るのは分かってるけど・・・隣にぽっかりと穴が空いているように寂しく感じる。
沢山備え付けられている枕のひとつを布団の中へ引き混み、抱き締めて目を閉じる。
わたしにも、何かもっと出来ればいいのに。
また“危ないからダメだ”って言われるだろうけど、例えば例の店に客として入ってみる事も出来るだろう。
客でなくとも、何かの業者の営業のフリとか・・・もしくは近くに新しく店を出すから挨拶に来たとか、店の中へ直接入る口実はいくらでもある。
それもまあ、もう少し様子を見てからの方が良さそうだけど・・・
やっぱり張り込みって好きじゃないんだよな・・・