第26章 これも全て巡り合わせ
沖矢の面影はひとつも感じられない、すっかり赤井秀一の容姿になった彼は、本来の声で平然と話し出す。
「色んな方々の知恵を借りて、現在は沖矢昴として生活している・・・顔は変装術、声は喉に変声機が付いている」
「兄さん・・・」
「何も言わずに姿を消して・・・連絡もせず・・・すまなかったな」
「いや・・・まあ、何かとんでもない事に巻き込まれてるんだろ?」
「秀吉は相変わらず察しがいいな・・・」
「兄さんに謝られたり褒められたりするとなんか気持ち悪いんだけど」
「俺だって悪いと思った時は謝るし、良いと思えば褒める」
久しぶりの再会を果たした二人が、お互いの近況報告を終える頃には夕方になっていた。
そろそろかおりも帰宅してくる時間だ。
秀一は夕食の準備に取り掛かる。といっても、ほとんど出かける前に済ませてあったので、後は仕上げていくだけだ。その量はちゃんと、三人分。
「兄さん料理とかできるんだな・・・」
「かおりに教わった。今は四六時中家に居る事も多いからな、夕食はほとんど俺が作っている」
「嘘だろ・・・母さん聞いたら驚くよ」
「母さんには知らせても構わんが・・・くれぐれも」
「真純には言うな、だろ?分かってる・・・」
良い匂いが部屋中に充満し、二人の空腹感を煽ってきた頃。
かおりが帰ってきた。
「ただいまー・・・」と、いつもよりかなり控えめな声が玄関先から聞こえ、秀吉が出迎えに行く。
「おかえり、かおりさん。お邪魔してます」
「いえ・・・あの、もう、知ってるんですよね?」
「秀一兄さんがインテリ優男に化けてること?」
「良かった・・・聞いたんですね!でも昴さんと秀一さんって、キャラ違いすぎてビックリですよねー」
ケラケラ笑いながら、秀一が料理を仕上げているリビングまで二人が入ってくる。
食事の準備を整え、三人で食卓を囲む。
「改めて俺から紹介しようか。コイツが秀吉、弟だ」
「はい。いつも聞いてたからよく知ってます」
「それでこれがかおり、いずれは秀吉の姉になるだろう」
「っ!兄さん婚約したのか?」
「まだだが、そのつもりだ」
相変わらず淡々と話す秀一に、驚き喜ぶ秀吉、かおりは頬を染めて少し俯き微笑む。