第26章 これも全て巡り合わせ
ママがしばらく悩んだ末降参してきたので、コッソリ耳元で「太閤名人です」と教えてあげる。すると大声を上げられそうになったので慌ててそれを抑える。
角のテーブルの二人も、ママが“太閤名人を認識した”と気付いたか、こちらを見て太閤名人が会釈してくる。
「よく見たらそうね!気付かなかったわぁ・・・昴くんと太閤名人はお友達なのっ!?」
「知り合いみたいですよ」
「ケーキ・・・食べるかしらねぇ?」
「太閤名人いつも食べてますもんね、対局中・・・」
カウンターの内側でヒソヒソと盛り上がり。
ママに言われるままケーキを用意して、彼らの所へ持っていく。
「どうぞ。ママからサービスです」
「ありがとうございます!頂きます」
「名人はケーキがお好きなんですか?対局中に召し上がられてるのをよくお見かけしますが」
「ああ・・・好きと言うかなんと言いますか・・・」
太閤名人が、ふにゃりと笑い出す。破顔というのか。テレビで見ていた彼からは想像できない笑い方。
なんでもケーキは「恋人に食べさせられてからハマった」んだそうで。
フニャフニャと笑う太閤名人の様子は、ますます秀一さんとは似てないな・・・と心の中で呟きながらその場を去ろうとした所、昴さんに呼び止められた。
「待ってください、かおりさん」
「はい?」
「今日名人を家にお連れしても構いませんよね」
「え、ええ・・・大丈夫ですよ」
その連れてくる客を目の前に言われたら、断ることもできないじゃないか。(断るつもりも無かったけど)
了承してカウンターの中へ戻る。
でも太閤名人を家に連れて帰るということは、事実を話しても大丈夫、と秀一さんが判断したという事だ。
彼らはケーキをペロりと平らげると席を立ち、わたしとママの前で挨拶をし、会計を済ませ店を出ていった。
空いたテーブルを片付け皿を洗っていると、やはりママが横に来て質問攻めに合う。
こうなる事は予想してたから、サラッと質問には答えられたけど・・・
家に帰った二人の様子が見たくて見たくて、内心それ所ではなかった。