第26章 これも全て巡り合わせ
ちょうど店も暇なことだし・・・自分のコーヒーも作り、彼らの分と一緒に席へ持っていき、隣のテーブルの席に浅く腰掛けた。
「左利きなんですね、沖矢さん」
「ええ。棋士の方にもいらっしゃいますよね。ほら、名人が少し前に対局された方も」
「よく見てらっしゃいますね。でもあの先生は本当は右利きなんですよ」
「おや、そうでしたか」
「左手を動かした方が、右脳の働きが活性化されるとかなんとかで・・・」
「成程・・・将棋は左脳が大事なのだと思っていましたが、右脳なんですか」
「論理的に作戦を考えるのは左脳らしいですね、ですが膨大な数の棋譜を記憶していて、対局の先を瞬時に読むのは右脳だと言われています」
「へえ・・・やはり名人もかなりの数を覚えていらっしゃるんですか」
「僕は元から暗記が得意だったもので・・・棋譜の記憶量に関しては日本一・・・いや、世界一かもしれませんね」
「さすがですね」
太閤名人に気付かれないよう、容姿を観察させてもらうが、とても変装だとは思えない・・・
これが変装なら有希子さんレベルだ。(もしくはベルモット・・・)
淡々と二人は会話してるけど、きっと、お互い相手が本当に兄弟なのか、今は探り合いをしてるんだろう。
余計な事を言わないよう、しばらく二人の顔を交互に眺める。
「そういえば・・・沖矢さんの妹さんも入院されてるんですよね?どこか悪いんですか?」
「ああ・・・無茶をして怪我をしたようで。すっかり良くなったと聞いていますのでもう安心ですが。名人もどなたかのお見舞いで病院に行かれてたんですよね?」
「実は僕も・・・妹の見舞いで」
「妹さん?いらっしゃるんですね」
「はい。血は繋がってるんですが戸籍上は別になってるんで・・・内緒にしておいてください」
「ええ。大丈夫です。僕にもそういう家族がいますから、分かります」
早く兄弟なのを明かせばいいのに!と一人ヤキモキしていると新たな来客があり、わたしは退席。
カウンターの中へ戻り飲み物を作り。しばらくするとママもバックヤードから出てきた。
「昴くんのお連れさん、どこかで見た気がするわねぇ・・・どこだったかしら・・・」
「さすがのママでも分かりませんか?」
「でも最近見た気がするのよぉ・・・」
「もし分かっても絶対黙っててくださいよ!」