第25章 異次元の狙撃手、その裏側。
たまたまなのか、わたし達の他には誰もいない談話室でしばらく彼と会話を続ける。
太閤名人は先日の試合で久々に黒星が付き、現在王位を一つ落として六冠王なのだが。その負けた試合中、名人は終始上の空というか心ここに在らずのように見えて。
その理由を尋ねてみると、“恋人の事を考えてた”んだと。
一流棋士とも言えどそんな事もあるのか・・・かなり意外。
「彼氏がすごく不思議がってたんです。あの人ほんといつも自分の事みたいに喜んだり悔しがったりしてるんですよー?」
「ふーん・・・会ってみたいな、僕の大ファンの彼氏さん」
「そりゃあ、会えたらすごく喜ぶと思います!」
「君の連絡先、教えてよ。是非彼氏さんも交えてまた」
「はい!」
探偵事務所の名刺を渡すと、少し驚いた顔をされる。
「探偵に見えないですよね・・・へへ」
「いや・・・葵かおりさんね・・・腑に落ちたって感じかな・・・」
最後の方はよく聞き取れなかった。
「っ?」
「ごめん、気にしないで。でも可愛らしい探偵さんもいるもんなんだね」
「いやいや・・・まあ探偵の仕事なんて滅多に無くって、事務所の下の喫茶店でバイトもしてるんですけど、そっちの方が本業みたいになっちゃってて・・・」
「ははっ、“探偵は喫茶店にいる”、だね・・・米花町か。今度遊びに行くよ」
「いいんですか!?うわー!きっとママも喜びます!」
連絡先を交換して、ちょうど飲み物も空になり。
太閤名人は談話室を出てどこかへ歩いて行った。
真純ちゃんの所かと思ったが、再び彼女の病室の前に来てみても、人の気配は感じない。
先程の見舞い客達も帰ったようだ。
ドアをノックすると、中から真純ちゃんの声が聞こえた。と言う事は、意識が戻ったのか!ドアをスライドさせて、病室に入る。
「世良ちゃーん!目、覚めたんだねー!」
「かおりさん!わざわざ来てくれたのか?なんか悪いな・・・」
「ううん!元気そうでほんと良かったぁ・・・」
「もうバッチリさ!傷はちょっと痛いけどな!」
安心して気が抜けて、気付いたら泣きかけていて。
それに気付いた真純ちゃんの慌て方がなんか秀一さんに似てる気がして今度は笑い泣きのようになってしまった。
真純ちゃんともしばらくお喋りをして、病院を出た。