第25章 異次元の狙撃手、その裏側。
エレベーターが止まり、扉が開く。
今度も太閤名人は扉が閉まらないよう配慮してくれて。礼を言って、先に降りる。
前の壁には各病室への案内の矢印があり。わたしはそれに従い、真純ちゃんの病室の方へわざとゆっくり向かう。
やっぱり、太閤名人も後ろを歩いてくる。でも、こんなにわたしはとぼとぼ歩いているのに、追い越される事は無い。彼は少し後ろを同じ速度で歩いている。
これは・・・どうするものか。
真純ちゃんの病室に近付くと、来客中なのか、中からザワザワ人の気配がして。なんとなくその前を通り過ぎ、自動販売機とビニール椅子が並ぶ談話室まで来てしまった。
「お友達、部屋にいなかったの?」
どうして彼はついて来たのだ。太閤名人に声を掛けられ振り向く。
「ああ・・・居たと思うんですけど・・・なんか騒がしそうだったので一旦こっちに・・・」
「へえ・・・また僕と同じだ。一緒にしばらくお茶でもしようか」
「・・・はい?」
「えっ?ダメなの?」
「いえ!全然!」
ダメな訳無い。けど「えっ?ダメなの?」と驚き落胆したように言われて、なんだか申し訳なくなってくる。
それぞれ自販機で飲み物を買い、長椅子の端と端に腰掛けた。
太閤名人曰く、将棋で有名になってからは、人なんて向こうから寄ってくるのが当たり前で。
ジャージに眼鏡姿でも、自分を羽田秀吉だと見抜いたこの女性(わたし)は、おそらく自分の熱狂的なファンなのだと思われるのに、お茶の誘いを快諾しなかった事に驚いたそうで・・・
「わたしも応援してますよ!けど、実はわたしの大事な人が太閤名人の大ファンなんです!それでお顔もよく見てるから気付いちゃって・・・なんかすみません」
「いや、いいよ。その大事な人っていうのは・・・彼氏かな?」
「よく分かりましたね!そうです・・・今日もその人の妹さんのお見舞いに来てて」
「ん?・・・そうか。彼氏さんは見舞いには来ないの?」
「えー、っと・・・今日はわたしが勝手に一人でお見舞いに来てるんです」
柔らかい話し方の太閤名人。顔付きもだけど秀一さんとは全然違う雰囲気。
二人が並んでも兄弟には見えないだろうな・・・