第25章 異次元の狙撃手、その裏側。
受付で真純ちゃんの病室の部屋番号を教えてもらい、エレベーターを目で探して。
見つけたそこへ向かって歩く。まだ少し距離がある所でエレベーターが到着し、待っていた一人の男性が乗り込んだ。
すると、有難いことにその男性は“開”のボタンを押して扉を開けて待ってくれている。
小走りで乗り込み「ありがとうございますー!」と言い、頭を下げかけた瞬間、口を開いたまま身体が固まる。
「しゅう、きち・・・さん・・・太閤名人です、よね」
「・・・よく気付いたね。いつもこの格好だとほぼバレないんだけどな」
男性は、人差し指を縦にして口元に立てる。内緒にしてね、って事だろう。有名人だもんな。
「そうなんですか?すぐ、分かりました」
「そうかぁ・・・」
頭を掻き照れ笑いするこの男性は、一見ジャージに丸眼鏡に無精髭のまるで入院患者な容姿。
わたしは、テレビに映る、着物姿のピシッとした彼しか知らなかったけど・・・このジャージの彼は太閤名人、羽田秀吉、つまり秀一さんの弟だ。つまり真純ちゃんの兄でもある。
わたしだって探偵業の身、人物の少々の変装くらいは簡単に見破れる目を持ち合わせているつもりだ。
大事な人の弟の顔なんて、しっかり覚えていて当然・・・
「で、何階かな?」
「あ・・・四階です!」
「一緒だ。友達のお見舞い?」
「ええ、そんなところです・・・」
持っていたフルーツの籠をギュッと握りしめる。
エレベーターは扉を閉じ、上がり出した。
しかし頭の整理が追いつかない。
秀一さんがいつも気に掛けている、会いたがっている相手が今ここに居る。どう動くのが最善なのか。
きっと太閤名人は、真純ちゃんに会いに来たんだろう、同じ階で降りるみたいだし、このまま偶然一緒に病室へ行くこともできそう。
でも一緒に行ってどうする。わたしは当たり障りなく振る舞うだけか。
なんとか、この人物とお近付きになれないものか。
(決していかがわしい意味ではなくて、沖矢昴と太閤名人を会わせる口実を作りたいのだ)
・・・秀一さんに連絡が取れればと思うけど、彼は今大変な時かもしれない。
撃つか撃たれるかかもしれない、そんな時に連絡は・・・控えようと思う。