第25章 異次元の狙撃手、その裏側。
翌日。
わたしは今日もエラリーの日。
午前中、近所の常連客数人がコーヒーを飲みには来たけど、いつもなら忙しない昼時になっても食事をしに来るサラリーマン達の姿はなく。
昼も過ぎ、あまりに暇なので「事務所とか家でやることあるなら上がっていいわよ」と言うママの言葉にまた甘えて、エプロンを外した時。
入口のドアのベルが鳴り、今日はポアロに出勤のはずの安室透と、そのポアロのマスターが入ってきた。
「こんにちは!?・・・ポアロは?」
「今日はもう閉めたんだ。あまりの暇さにね・・・本当参るよ」
「こっちも今日も全然よぉ・・・ちょうど今かおりちゃんを帰そうとしてた所」
「・・・それはちょうど良かった。かおりさん、出掛けましょうか」
「え?っとー・・・」
「ほら、早く荷物取ってきてください」
「はい・・・」
つくづく零はタイミングの良い(悪い?)男だと思う。
二人で出掛けることになったのは良いけれど、急すぎて出掛けたい所も思い浮かばず。しばらく零の車で都内を走る。
車通りはいつもより少なく、ドライブも快適だ。
「映画館か、カフェか・・・」
「うーん・・・」
「じゃあ水族館はどうだ?こんな日なら空いてるだろうし」
「なるほど!空いてれば好きな水槽見放題だね!」
「決まりだな」
車でスグの所、米花水族館に着いてみれば、やっぱり客足はまばら。これなら周りの人を気にせずのんびり過ごせそう。
チケットを買った零が財布をしまい、その空いた手の端が、わたしの指先に触れて。
どちらからともなく手が繋がり、建物の奥へ足を進める。
澄んだ綺麗な青色の中の、大きさも色も様々な魚達に目を奪われながら、少しずつ進んでいき。
この水族館の名物、海中トンネルまでやってきた。ここは、前も後ろも上も、全てひと繋がりの水槽。
自分よりも大きなサメやマンタが悠然と頭上を泳いでいく姿に息を呑む。
「すごいねー・・・海の中にいるみたい」
「実際そうだったらかおりさんはもう溺れてるな」
「ひどい・・・」
繋いでいる手を振りほどきたくなりブンブン振るがそれは許してもらえない。
「溺れたらまた助けてあげるから」
「わたし一度も溺れてないけど」
「そうだったか?」
「そうだよ」
一人楽しそうに笑う彼を睨み付ける。