第3章 本当のあなたは
「わたし、今日家に帰りたくないんです・・・」
腕の中の彼女が突然そんなことを言う。
僕と一緒に居たいと言っているのか?それとも単純にそのままの意味か・・・おそらく後者だろうが。
彼女を抱いていた腕を離し、隣の椅子に座り直す。
「どうしたんです?一緒に住まわれている男性がいますよね?」
「えっ?わたし・・・言いましたっけ?」
思わず自分が知り得ないはずのことを口走り、咄嗟に嘘で誤魔化す。僕らしくもない。
「コナンくんから聞いています」
「ああ、そうですか・・・実はその人が、その人じゃないかもしれなくて」
「沖矢昴さん、ですよね?」
「沖矢昴という人は存在してないそうです」
「どういうことですか?」
「わたしは、宗介さんが調べた資料を見ただけなんですけど、彼は警察関係者が身分を偽っている姿である可能性が高いって」
「得体の知れない奴の所には帰りたくないということですか」
「そう、なんです」
「では彼は、悪い人間だと思いますか?」
「いいえ」
「なら、信用してあげてもいいんじゃないですか」
「どうして?」
「僕は、身分を隠さねばならない者の気持ちが分かるからです」
「彼の、気持ちですか・・・」
「それよりずっとスマホ、光ってますけど大丈夫ですか?」
「あ・・・沖矢さんですね」
彼女は電話を耳に当て沖矢と話す。
次第に強張っていた表情は和らいで、少し明るくなったように見える。
会話の内容を察するに、沖矢は帰りの遅いかおりさんの事をえらく心配して電話をかけてきていたようで、
これからエラリーまで迎えに来るらしい。
沖矢昴は、そんなにこの女性のことが気になるのか。
赤井秀一は、そんなキャラだったか?僕の知ってる赤井はあからさまに女性に優しく接するような奴じゃなかったと思うが。
「例の彼が迎えに来てくれるみたいです」
「随分心配されているようでしたね」
「そうなの!やっぱり、彼のこと、信じてみます」
「そうしてあげてください。ではまた・・・報告しますから、かおりさんの連絡先を・・・」
電話番号を交換し、登録して間もなく。沖矢昴の姿を外に確認した。
まさか近くで見張っていたんじゃないかと思う程・・・早すぎる到着。
かおりさんと一緒にエラリーを出る。