第3章 本当のあなたは
ラッキーな話が舞い込んできた。
僕は組織の指示で、組織を裏切った可能性のあるキールやシェリーと関わりがありそうな毛利小五郎を探る為、探偵事務所の階下の喫茶店、ポアロで安室透として働いていた。
それと同時に、死んだと思われている赤井秀一の消息も個人的に追っていて。
毛利探偵からはもう得られるものは無さそうだが、毛利家の居候だという江戸川コナンという少年、彼の周りはまだまだ興味深い。
急に現れ、工藤優作の家に住み出した沖矢昴という男。
僕はこの人物が赤井ではないかと考え、これからどう探りを入れていくか思案していた所だ。
その沖矢には同居している女性がいて、名前は葵かおり。
なんと先日、その彼女を助けてやってほしいと、ポアロのマスターの奥さんに相談された。
そして先程、今エラリーに来てるから、と連絡を受け、ポアロを早退させてもらい、駆け付けた所だ。
思ってもみない形での接触。
しかも、彼女は今憔悴しきってるそうだ。弱っている女性は、懐柔しやすい。
何か赤井に繋がる情報は得られるだろうか。
ママは僕を葵かおりに紹介すると、自宅へ戻ると言い、店を閉じて出ていった。
彼女は顔色こそ良くないが、綺麗な顔をしていると思う。
こんな時に考えるべきことではないが、彼女の容姿は所謂好みのタイプだ。
話を聞けば、ここの二階で一緒に働いている上司の行方が分からないと言う。しかもその原因はある“組織”にありそうだと。
それは、僕が潜入しているあの組織でほぼ間違いなさそうだ。
「かおりさん、その組織ですが、心当たりがあります」
「ほんとですか?」
「調べてみます。ただ、宗介さんのことは、最悪の場合のことも・・・覚悟しておいてください」
それを聞いて泣き出しそうになる彼女を見て、内心、ああ可愛い、と思ってしまった僕は、不謹慎で最低かもしれない。
ついに彼女の目から涙が溢れ出して。
僕は自然と彼女を抱き締めていた。
小さくて柔らかくて、強く抱けば壊れてしまいそうな身体が腕の中で震えている。
「安室さん、すみません・・・」
「かおりさんの気の済むまでどうぞ」