第3章 本当のあなたは
東京に出てきてしばらく経ち。
仕事には慣れたけど、沖矢さんとの暮らしには中々慣れなくて。
身体の相性が良すぎるのも考えものである。
男性と二人で住むのこそ初めてだが、毎晩ヘトヘトになるまで身体を求められるのも初めてだ。
今は宗介さんと居酒屋に来ている。
一杯目の生ビールをゴクゴクと喉に流し込みながら宗介さんが言う。
「葵、少し痩せたか?」
「そうですか?」
「ああ、そう見える」
「毎晩沖矢さんとしてるからですかね、結構体力使うから」
「そんなに凄いのか?」
「すごいってもんじゃないですよ!こんな人初めてです・・・」
「好きなのか?沖矢昴の事」
「好き・・・?もちろん嫌いではないですけど・・・好きになっちゃいけないような気がしてます」
「そうか・・・」
「身体はめちゃくちゃ合うんですけどね」
「そういう話は言わんでいい」
「はいはい」
ビールも三杯目になり、お腹も膨れた。
日本酒の小さなボトルを頼み、二人でチビチビと飲む。
「俺が追ってる例の組織のことなんだが」
「進展あったんですか?」
「尻尾を掴めるかもしれん所まで来た」
「やったじゃないですか!東京来た甲斐がありましたね!」
「ああ。来週何日か事務所空けてもいいか?」
「留守は任せてください!」
「頼もしい新人だな」
「そりゃあ、宗介さんの弟子ですから」
「簡単な依頼なら受ければいいからな」
「わかりました!」
「じゃ、これ。預けるから、よろしく」
チャリ、と事務所の合鍵を渡された。
久しぶりの宗介さんとのお酒は楽しく、ついつい夜中まで飲んで帰宅したのは日付が変わった頃。
少し機嫌の悪そうな顔の沖矢さんに出迎えられて、それが少し嬉しかったりして。
でも、この日を最後に宗介さんとは、会えなくなる。
翌週は一人きりで仕事し、金曜の夜に宗介さんに電話するが、応答無し。
事務所に帰ってきている様子もない。
週が明けて、一階の喫茶エラリーのママに相談するが、今まで宗介さんがこんなに長いこと事務所を空けたことはないと言う。
事務所の掃除も、もうする場所がないくらい綺麗になってしまっていて、おまけに仕事の依頼もない。
することがない。
宗介さんの自宅も掃除してやろうか、と奥の部屋に入った。