第22章 シルバーブレッド達のご帰宅
小さな電球と、間接照明だけを点けた秀一さんの部屋で、わたしは相変わらずビールを、秀一さんは珍しくウイスキーを炭酸水で割って飲んでいる。
ソファに並んで座って、秀一さんはタブレットを気にしていて。
「かおり、見てみろ・・・どんどん広がっている」
「わ・・・」
新一くんが京都で事件を解決したというツイートが更に広まり、既に別の記事まで沢山作られているようだった。
新一くんや彼の周りの皆は気付いているのだろうか。
そして組織の奴らはどうなんだろう・・・
例えば自分が探偵として、工藤新一を探れと依頼を受けたらどう動くだろうか・・・
零だったらどうするだろうか・・・
工藤新一と親戚だという葵かおりや江戸川コナンにまずは話を聞く?
でもわたしやコナンくんから有益な情報が手に入るとは考えにくい。
そうなると、この家を張り込むか・・・新一くんの通っていた学校に潜入するか・・・
新一くんと近いと思われる蘭ちゃん達を狙うか・・・それだけは、あってほしくないけど。
でも零なら・・・
「降谷零だったら、事情を話せば理解してくれそうじゃないですか?それでやっぱり工藤新一の生存は確認できなかった、って報告してもらえないかな・・・」
「・・・それは俺よりもお前の方が良く分かっているんじゃないのか?」
「そうですか?うーん・・・」
でも新一くんの事を話すにしたって、どこまで話していいものか。
まあ、わたしから話す事でもないし、とりあえずは向こうの出方を伺うしかないのかもしれない。
少し前に“組織の話はしたくない”と零に言われたのもあり、尚更こちらからは言い難い。
今日はビールが全然美味しくない。
「お前はどんな家に住みたい」
「は・・・っえ?」
「引っ越すならどんな家がいいんだ、ほら、間取りとか色々あるだろう・・・」
秀一さんはもう別の事を考えていたみたいで。
タブレットには物件探しのページが開かれている。
風呂とトイレは別、二人で住むならリビングと寝室だけで足りるのか、一階は絶対嫌だとか・・・
なんか・・・新居を二人で決めるなんて、夫婦にでもなったような気がして。
さっきまでのモヤモヤが嘘だったように晴れて、全く同じビールですら美味しく感じてきた。