第21章 ひとりぼっちの夜
もしかしたら零はどこか違う所に向かうんじゃないかとも少し思っていた。
けど、あっと言う間に工藤邸に着き、真っ暗な家を見て、なんだか切なくなる。
「ありがと零・・・なんか、寂しいな」
「なんだよそれ・・・今日は帰るって決めてるんだろ?」
「うん、そう」
「気が変わらないうちに、早く降りたら」
不貞腐れたような、拗ねたような顔が、ハンドルに置かれた手の上に前を向いて乗せられている。
もう少し一緒に・・・なんて考えてはダメだ。
帰らなければならない。
「うん。おやすみ」
運転席の方に身を乗り出して、零の頬にキスをすると、すぐにこちらを向いた零に唇を重ねられて、ゆっくりと離れた。
「おやすみ、かおりさん」
胸がザワザワしてる。でも無視して車を降りる。
いつもならわたしがここに立って零を見送る流れだ。
けど今日は昴さんもいないんだし、わたしが家に入るまで見てると言われて。
家の鍵を取り出し玄関扉まで歩き、後ろを振り返る。
遠いし暗いし表情はよく見えないが、彼がこちらを見てくれているのは分かる。
手を振って、扉の方に向き直り、鍵を開けて中に入ってもまだ零はこちらを見ていて。
また手を振って、ガチャリと扉を閉めた。
これでいい。
わたしの恋人は秀一さんなんだから。