第21章 ひとりぼっちの夜
結局彼の車で送られることになり、近所の駐車場に停めていた車に乗り込む。
昼間の熱が残る車内に、エアコンの生ぬるい風が吐き出される。
車は停めたまま、零が話し出した。
「でもあの時かおりさんは、安室透と接触する為にママに探偵の紹介を頼んだんだろ?僕を紹介されるのを見越して」
「えっ?わたし何も、頼んでない・・・それにあの時はそもそも組織の事も、零がそこの人間だって事も知らなかったし」
「・・・そうなのか?」
「エラリーにいたら零が来て、紹介されて、ほんとそれだけ」
「じゃあ僕らが知り合ったのは偶然だったのか」
「んっ?あれって零が仕掛けたんじゃなかったの?」
「いや、困ってる子を助けてやってって、頼まれただけだ。かおりさんの事は沖矢昴の同居人として知ってはいたけどな」
「へー・・・そうだったんだ」
あれは零の方から接触してきたもんだと思ってた。
今更彼らにこんな事を話すつもりはないけど、秀一さんもコナンくんもそう思ってただろう。
「となると・・・あの泣き顔は演技じゃなかったってことか」
「酷い・・・わたしほんとに辛かったんだから・・・」
「ああ、不謹慎だよな、でも可愛くって堪らなかった。あれが演技なら素晴らしいよ・・・」
「零はずーっと演技してた訳でしょ?」
「・・・安室として知り合ったんだからな」
「ふーん・・・」
ふと、この前聞いた秀一さんの過去の事を思い出してしまった。
人を騙して利用するのはこの人達の世界では日常茶飯事なんだろうか。
まあ探偵だってそういう仕事をするときもあるから、一概にそれが全て“悪”だとは言い難い。
依頼人の利益の為に探偵が秘密裏に動くように、秀一さんだって組織を潰す為にそうしたのだ。
秀一さんのことを考え出すと、やっぱり零と今こうやっている事に申し訳なさを感じてくる。
ぼちぼち・・・家に帰してもらえないだろうか。
車内も結構冷えてきた。
何となく腕をさすっていたみたいで、それに気付いた零は「寒いか?」とエアコンの風量を下げてくれた。
・・・相変わらずよく出来た男だ。
「・・・さて、行こうか」
やっと零がギアを動かし、車は駐車場を出て工藤邸の方へ向く。