第1章 米花町2丁目21番地
東京に葵を連れていけたら・・・と考えた。
教育期間を終え、別々に仕事をするようになって気付いたんだが、彼女とは実に仕事がやりやすかった。
葵がいると、なぜか仕事が捗る。
肉体的には疲れでボロボロのはずなのに、彼女がいると疲れを感じない。
それに、葵なら俺の苦手な事務処理も得意だ。
事務員兼探偵・・・いいじゃないか。
それに女性しか潜入できない調査だってある。
(俺は女装が似合う容姿ではない)
しかし組織の調査は個人的な件であり、調べても金は一切入らない。
だから葵を雇うのは、他の案件でしっかり給料を払える状態を整えてから。
最後は彼女次第だったが、葵に俺が東京で独立する事、そこにいずれ来てほしい事を伝えると、彼女は数秒黙った後、すぐに快諾してくれたのだ。
「いいですね!東京って住んでみたかったんです!」
「そんな簡単に決めていいのか?」
「宗介さんが一緒なら、大丈夫です!宗介さんは、わたしを悪いようにはしないでしょ?」
「当たり前だ」
「わたし、宗介さんにこの世界に引き入れてもらって、一緒に仕事させてもらえて、本当に感謝してるんです。だから、宗介さんの為なら、何だってします!」
ここまで言われると先輩冥利に尽きる。葵は人を喜ばせる言葉を選ぶ天才だ。だから一緒に仕事したいんだが。
これは余談だが、葵と二人で浮気調査の尾行をしたときのことだ。
対象者が浮気相手とホテルへ入っていく様子を押さえ、あとは出てくるまで車中で待機してたとき。
「葵は浮気したことあんのか?」と、冗談のつもりで聞いてみた。
てっきり「あるわけないでしょ!最低!」って怒るかと思ったら、
「目の前にいい男がいたら、したくなるかもしれませんよねー」とサラッと言われてしまい、驚いた。
同時に胸が痛くなった。もちろんお父さんとして。
とにかく葵というのは、そういう奴だ。
そいつが明日、やってくる。
東京での住まいは、留守になっている親戚の工藤邸だと聞いている。
俺の事務所からも近いそうだしちょうど良い。