第1章 米花町2丁目21番地
俺の見立て通り、葵には才能があった。
尾行もバレずにできたし、素行調査も完璧。
しっかり対象者を観察できていた。
加えて調査内容のレポートをまとめるのが上手い上に、めちゃくちゃ早い。
教育係は俺なのに、逆にその点では教わりたいほどだった。
(俺は事務作業が苦手だ)
身分を偽って対象者に接触する仕事をさせたときだって、
葵は想定外の会話や出来事にも、アドリブで自然に対応できた。
俺の潜入調査のモットーは“慎重かつ大胆に”なんだが、葵はそれを地でいってるタイプだ。
あの女優の藤峰有希子が親戚だそうで。母親の従姉妹なんだとか。
演技力は遺伝子レベルで優れているのかもしれない。
葵はメキメキと探偵としてのスキルを上げ、半年の教育期間が終わる頃には簡単な調査は一人で出来る程に成長し、周りの社員たちも感心していた。
半分は俺の素晴らしい教育のおかげだが、もう半分は、葵の本質的なセンスの良さがあってこそだろう。
その頃、俺は東京へ出る意志を固めていた。
目的は、前から気になっていた、ある“組織”を調査する事。
その組織は関東圏での動きが多く、地方にいては調査し難いのだ。
東京の別の探偵事務所に入ることも考えたが、組織の調査をなるべく優先したいので、独立を選んだ。