第21章 ひとりぼっちの夜
この人があの“眠りの小五郎”か。そう言われれば、新聞で見た顔のような気がしてくる。
でももっとクールで渋い雰囲気の人を想像してたんだけどな。
「初めまして。葵です。エラリーでバイトしてるんです、それから」
「おお!エラリーか!久しく行ってないがあそこのママも中々美しかったなー」
「そうですね・・・」
「何かお困り事がありましたら、ぜひ!この名探偵毛利小五郎に・・・」
金色の派手な名刺を差し出される。
本当にこの人が警察にも頼られる名探偵、毛利小五郎なのか?
自分のこと自分で“名探偵”なんて言うか?普通。
あのよく出来た蘭ちゃんの父親だというのも信じ難い。
「毛利さん、彼女も探偵なんですよ」
「何!?こんなに可愛らしい方が!」
「僕も一緒に調査した事があるんですが、彼女中々腕の良い探偵さんですよ」
「いえ!わたしは全然・・・」
「それなら同業者同士、私がいつでも相談に乗りましょう」
「よろしくお願いします・・・あの、今日コナンくんはいないんですか?蘭ちゃんは修学旅行ですよね」
「ウチの娘と居候をご存知でしたか!今コナンは知り合いに預けてまして・・・ですから何時まででも、お付き合いしますよお嬢さん」
「それはどうも・・・」
手を差し出され、握手する。
わたし、顔が苦笑いになってないだろうか。
まあ、店員二人にまた視線を移すと、彼らも苦々しい顔をしていたのでもう気にしない事にする。
料理が来て、食べている最中も、食べ終わっても、毛利さんは何が楽しいのか「ナハハハハ・・・」と高笑いしながら喋り続ける。
自分の解決した難事件や、安室透が自身の自慢の弟子であること、米花町の草野球チームのことやら・・・
正直、どうでもいい、うんざりし始めた頃、安室さんが話を遮った。
「毛利さん、そろそろ沖野ヨーコの出演する番組の時間では?」
「おーっ!そうだった!では失礼!ツケで頼む!」
ガタガタッと毛利さんは立ち上がり、ものの数秒で店から出ていった。
「安室さんさすがですね・・・」
「弟子の立場で言うのはアレですが・・・毛利先生は、とても扱いやすいです」
「・・・そうそう!わたし、今日二人と話したい事あって来たんだった」
客はもう、わたしだけ。
店じまいをなんとなく手伝いながら、旅行の話を切り出した。