第21章 ひとりぼっちの夜
入口でそのまま無言で待っていると、「よし、大丈夫です!」と事務所の中を調べ終えたかおりが言い、俺の近くにやって来た。
「盗聴器の確認なんて・・・安室さんでも来ていたんですか?」
つい、かおりの出方を試すような言い方をしてしまった。
「たまに下からお昼ご飯持ってきてくれるんです」
「相変わらず仲が良さそうでしたね」
「って・・・見てたんですか?」
「ちょうどかおりさんが窓から顔を出している所を遠くから」
「なーんだ・・・まあ、仲悪くはないですよ」
返ってきたのは、ごくごく自然な受け応えだった。
「彼と何か話しましたか?」
「安室さんはこの前コナンくんと、哀ちゃんの無くし物探しを手伝ったんだーとか、わたしも哀ちゃんと昨日バーベキューしたのーとか・・・大したことない話ですよ」
「そうですか・・・」
思考を整理しながら暫く黙っていると、かおりが下から顔を覗き込むように見上げてくる。
「昴さんヤキモチ?」
「そうかもしれませんね」
「え、ほんとっ?」
かおりが嬉しそうに笑い出す。
俺はひとつも楽しくないんだが。
「では。少し顔を出すだけのつもりでしたので、これで」
「・・・もう行っちゃうの?」
別れを告げると彼女は一変してしおらしくなり、俺のジャケットの裾を掴んでくる。
これだけクルクルと態度が変わるのを見ているのは面白いが、のんびりしている時間はそんなに無い。
「飛行機は待ってはくれませんからね」
「じゃあ・・・気を付けて、行ってきてね」
「大丈夫です。何も心配いりませんよ」
朝の玄関先でのやりとりが脳裏に蘇る。一瞬デジャブかと思ったが朝も確かにこうだった。
かおりの頭を撫でてやり、自然と唇が重なり。
彼女の気が済むまでまた何度もキスをして、事務所を後にした。
これはかおりの癖なのか?
外に出た後、後ろを振り返ると事務所の窓から彼女が顔を出していた。
ひらひらと手を振って、身体の向きを戻し、駅の方へ歩く。
成田へ向かい、ボスからパスポートとチケットを受け取り。
搭乗手続きを済ませ、あとは出発の時刻を待つだけだ。