第21章 ひとりぼっちの夜
かおりに、彼女の事を話そうと思う。
いずれ事実が明るみに出るなら、先に俺の口から伝えておきたい。
これ以上かおりがあの女と親しくしたいのなら、尚更だ。
隣家に住む小さな彼女に纏わる事だ。
彼女の本名は、宮野志保といい、彼女は組織の人間だった。
組織でのコードネームはシェリー。
科学者として、組織でも重要なポストを担っていた女だ。
こんな小さな少女が?と不思議がられるかもしれないが、彼女の身体にはおそらく、眼鏡のボウヤやベルモットと同じ作用が起こっており、見た目が幼児化している状態なのだ。
彼女の本当の年齢はたしか十代後半だ。
宮野志保には姉がおり、姉もまた組織の一員だった。
姉の方はコードネームも与えられていない末端の構成員だが。名前は宮野明美という。
数年前のことだ。
俺は組織に潜入する為に、明美に近付き、交際に持ち込み、信用させ、利用した。
彼女のおかげで潜入に成功し、実績を上げ、組織の中核にまでのし上がった頃・・・
FBIの部下のミスで俺は組織にスパイだとバレて、逃げることになる。
追っ手からは逃げ切れたが、俺を組織に入れるきっかけを作った明美には、気の毒な仕打ちが待っていた。
その経緯は割愛するが・・・結果明美は組織に殺された。
俺のせいでそうなってしまったのかと思うと、本当に申し訳ない。
宮野姉妹は仲が良かった。
彼女達は早くに両親を亡くし、二人きりで生きてきたそうだ。
普通の姉妹よりも、絆は強かっただろう。
妹にも辛い思いをさせてしまった。
今でも本当に悪かったと思っている。
宮野志保からすれば俺は、たった一人の家族である姉を利用し、姉が殺される一因を作った男だ。
きっと、恨まれているんだろう。
そして現在。
何の偶然か近くで生活をするようになり、俺も彼女も以前と姿は違うが・・・
俺は残された妹を勝手に陰ながら見守り、人知れず彼女を危険から遠ざけている。
それが今できる最大限の贖罪だと思って。
今更こんなことを言っても仕方ないのだが、俺は最初こそ、明美のことを利用するつもりで彼女に近付いた。
しかしいつの間にか本気で明美のことは愛していた。
勿論、今はかおりが一番大切だ、愛している。
だが、灰原哀という少女に対して、俺は特別な感情を持っているのだ。