第19章 伝えたいことがある
「零の言ってた通りだった・・・諸伏警部、スマホ見ただけで弟のだろうって言って。公安に配属されて潜入捜査中に亡くなったことまで想像ついてたよ・・・」
「さすがだな・・・」
「あの、何も答えてないけど、ゼロって男性に頼まれたのかとかも聞かれた」
「・・・そうか、さすが・・・ヒロのお兄さんだな」
「なんか考えてること全部見透かされてるみたいで喋るの恐ろしかったよー・・・取調室に二人っきりでさ」
「ははっ・・・それは悪かったな。でもありがとう、かおりさん・・・」
「少しでも力になれて良かったよ・・・いつもしてもらってばっかりだし」
「・・・それは僕のセリフだ」
「そんなことない。宗介さんのことだって・・・あれから何か、分かった?」
「ああ、悪いんだけど、まだ進展はないよ・・・勿論努力はしてるけどあまり変に立ち回って」
「分かってる。零は自分の立場を一番に考えて」
「ああ、でも一番大切なのは僕個人よりも、かおりさんだったり、宗介さんだったり、この国の安全だ」
「・・・ほんとそういうとこはマジメだよね」
「それは褒められてると取ればいいのか?」
「どっちだろうねー」
せっかく長野まで来たんだから、ここでしかできないことをしようってことで、まずは蕎麦と山菜の天麩羅を食べて。
レンタカーを返して、零の車で景色のいい高台までドライブにきた。
実は山の景色って、地元で見慣れてたから正直感動は薄いんだけれども・・・
零があんまり楽しそうなのでそれは言わないでおく。
車から降りて、青々とした緑が茂る山を眺めて思いっきり背伸びをする。空気が美味しい。
山って紅葉の方が有名だけど、新緑もまた良いもので。
心が洗われるってこういうことなんだろう。
今日は生憎曇り空だけど、それでも充分綺麗だ。
組織のことも全部無くなって、こういう何も無いところでのんびり過ごせたら幸せなのかな・・・
なんか老後の話みたいだ。
でもそのとき一緒にいるのは、零ではない、のかな・・・
秀一さんは今頃何してるかな・・・
遠くの方に黒い雲が見える。
そう言えば今日は夜から天気が崩れる予報だった。
そう思った瞬間、頬にポツリと雨粒の感触。
「あ、雨・・・?早くない?」
「だな。車乗ろうか」
車に乗り込み、来た道を戻る。