第19章 伝えたいことがある
車は長野市に入ると、高速を降りて駅に近い駐車場に停められた。
近くの店でわたしの名義でレンタカーを借りる。
なぜって、新宿ナンバーのスポーツカーなんて目立つし。
車を乗り換え、零の運転で諸伏警部の自宅を回って、留守を確認し、彼がいるであろう県警へ向かう。
かなり手前で車を停め、例のスマホが入った封筒をカバンにしまい、そこから歩いて一人で県警へ向かう。
これは・・・ラムの疑いがある人物のことを探れるチャンスかもしれない・・・
秀一さんには県警に行く用事はないと言ってしまった手前、何か探れたとしても言い辛いけど・・・上手い口実はないか、考えながら歩く。
でも、思いつかないまま目的地に到着してしまい。
入口の近くにいた婦警に、諸伏警部に会いたいとの旨を伝える。
しばらくそこにあったビニール張りの長椅子に座り、待つこと数分。
口髭を生やした小綺麗な男性に話し掛けられた。
「諸伏です・・・あなた、ですか?」
でもその横には、杖をついた隻眼の強面の男性も一緒で。
どうしよう・・・隻眼の人!しかも長野県警に!と頭の中がパニックを起こしかける。
冷静を装って立ち上がり、名刺を渡す。
「わたくし、東京で探偵をしてます、葵です。諸伏警部に内密にお話したいことがありまして、場所を移して頂けると有り難いのですが・・・」
「わかりました。こちらへどうぞ。・・・大和は戻れ」
隻眼の男性は“やまと”と呼ばれていたが・・・何者なんだろうか。
こちらを睨みつけ、悪態をついて外へ出ていった。
使っていない取調室に案内され、諸伏警部と二人きりになる。
逮捕されるようなことはしてないけど、この部屋に入るとまるで何かの犯人になったような気分だ・・・
無言の威圧というか・・・すごく居心地が悪い。
「それで、私に用とは?」
「知り合いの警察関係者から預かってきたものがあります」
封筒を取り出し、差し出す。
「どなたからですか」
「わたしもよく分からないんです」
「・・・開けても構いませんね?」
「ええ・・・」
警部は封筒を暫く眺めた後、ゴソゴソと中のスマホを取り出し、手に取りそれを黙って見つめていた。