第19章 伝えたいことがある
「でも・・・なんでわたし?安室透でもいいんじゃ」
「お兄さんは僕の幼い頃の顔を覚えているかもしれないから、顔を晒すのは避けておきたい」
「ああ、そっか・・・郵送もダメなの?」
「お兄さん本人に直接渡す所を確認できないと安心できない。金を払って全くの第三者に頼むっていうのも考えたけど・・・やっぱり信用できないから。かおりさんならと思って・・・」
「うん」
「知り合いの警察関係者から渡すよう頼まれたと言ってくれればいい」
「うん」
「もし何か聞かれても、何も知らないフリをしてくれ」
「うん・・・」
莫大な秘密をひとりで抱えてきた零は、すごいと思う。
少しでも力になれれば、とも思う・・・
今日こそ徹底的に零のガードをゆるゆるにしてやろうと思ってたけど。
こんな話をされては、そんな気力も無くなってしまいそうだ。
零がわたしを信用してくれていると分かったことはすごく嬉しい。
組織の情報を引き出したいわたしにとっても、かなりの好都合。
でも零をたらし込むような方法で情報を探ろうとしている自分が、馬鹿馬鹿しく思えてきた。
そのうち、車は群馬に入っていた。
「もう半分くらい来た?意外と近いんだね」
「早く終われば早く遊べるからな。それに夜から天気崩れるみたいだし・・・」
ふと運転席の前のパネルを覗くと、チラッと見ただけでも分かるくらい、かなり速度超過していて。
どうりで早い訳である。
こういうタブーも彼は破っていいのか?
「零、スピード出過ぎじゃない?」
「事故を起こさない自信はある」
「警察官でしょ?」
「運転している僕は警察官じゃない・・・安室透だから」
「・・・安室さんの免許証って、もしかしてある?」
「むしろそっちしか普段は持ち歩いてないな」
フッと零が笑う。
ついさっき、潜入捜査官の辛い部分を聞かされたばかりだけど。
・・・この彼は時々、安室透でいることを楽しんでるようにも見える。
そうでもしなきゃ長期の潜入なんてやってられないのかもしれない。