第19章 伝えたいことがある
車の中で、零が今回わたしを長野に連れ出す理由を話し始めた。
「今回かおりさんに頼みたいことって言うのは・・・」
「うん」
「前に話しただろ?組織に潜入してた幼なじみがいたって」
「ああ・・・ひろくん、だったっけ」
「そう、そのヒロの唯一の身内が長野にいて。お兄さんなんだ。長野県警の諸伏高明って警部なんだけど・・・その人に会って渡してほしい物がある」
「県警?の警部?」
「県警の警部だけど?」
ラムの可能性のある人物が先日まで長野県警にいたと秀一さんから聞かされたばかりだったので、思わず反応してしまった。
そんなことは、零に言わないが。
「いや、警部さんなら警察の中でやればいいのに」
「それができないから、かおりさんに頼むんだ。潜入捜査官の死を身内に伝えるなんてタブーは犯せない」
潜入捜査というのは、本来の自分を殺して、別人として生きていくようなものなんだと零は言う。
潜入中は本来の家族や友人とは一切接触できない。
つまり潜入中に命を落とした場合、本来の家族や友人にさえも、その死が知らされることはないそうで。
それは知識として知ってはいたことだけど、零の話はあまりにも生々しくて、聞いているのが辛かった。
景光くんが潜入捜査中に死亡したという事実は、絶対に知られてはいけないことだが、零はなんとかしてお兄さんには伝えたいと思っていて。
彼の死に直面したときに、零は咄嗟に彼の衣服からスマートフォンを抜き去っていたそうだ。
そのスマホを、お兄さんに渡してくれ、と言われた。
“景光くんのものです”なんて言わず、誰から頼まれたのかも伝えずに。
ただ、穴の空いた傷だらけのスマホが入った封筒を渡すだけ。
お兄さんはかなり頭のキレる人だそうで、彼ならそれを受け取るだけでも、ヒロの現状を察してくれるはずだ、と零は言う・・・
でもなんでそんな回りくどいことをするかって・・・
景光くんが死んだことを大声で言えないのと同様、潜入捜査官が死亡したことを知り得る人間も、かなり限られてしまうからだ。
零もまた潜入中の身の為、“降谷零”としては人前で振る舞えないし。
そして回りくどく伝えることで、死を知らせることが難しい立場に弟さんがいたと分かって貰う為でもあるんだと。