第18章 秘密が多い私達
出汁の効いた美味しい鍋をつつきながら、エラリーでこれからも働けるようになったのを報告する。
「かおりさんの働きっぷりなら当然だな」と零には言われたけど、そこは「零が一から教えてくれたおかげだよ」と彼のご機嫌を取りながら話を進める。
今日も、零のガードを徹底的に緩めていくつもりだ。
話は来週のことになる。
「それで、依頼人さんはどちらへ行きたいんですか」
「ん?言っただろ?長野って」
「そこは本当だったんだ」
「まあね、嫌なら別の場所でもいいけど?急ぐ用事じゃないから」
「いいよ?でも、何しに行くの?」
零は、個人的に用のある人物が長野におり、わたしにその人物と接触してほしいんだと言った。
ある意味本当に仕事の依頼だったのだ。
了承して、鍋を食べ進める。
「また零と出掛けられるんだねー」
「用さえ済ませたら只のデートだ、行きたいとことかあったら、教えてくれよ」
「うん。でも零と行くんならどこでも楽しそう」
「僕も楽しみだよ」
鍋をあらかた食べ終えて、締めの雑炊まで食べると、もうお腹はいっぱいだ。
テーブルの上を片付けて、白ワインに切り替えてソファに移る。
時計を見れば・・・まだ時間の余裕はある。
「零は今日何してたの?」
「僕は組織の人間と会ってた」
「へえ・・・誰と?」
「言ったところで分からないだろ」
「ベルモット、キールに、ラム、それからジンでしょ・・・この中にいる?」
一応、零の反応を見てはいたが、彼は顔色ひとつ変えなかった。
「ハハ・・・物騒な名前まで知ってるんだな。まあその中の一人だ」
「知ってるのは名前と性別くらいだけどね・・・」
「・・・知らない方が身の為だ」
「じゃあ聞かないでおく」
「やけに素直だな」
「わたしはいつも素直なつもりだけど」
「そうか?」
物騒な話はしたくなかっただけだ。
組織の話なんて続けてたら零のガードはますます硬くなりそうだし。
当たり障りのない話をしながら、零と肩をくっつけて、まったりと過ごした。
「あーもう帰りたくないよ・・・」
まだ少し時間に余裕はあるけど、そんなことを口走ってみる。
「そんなこと言われると帰したくなくなるだろ」