第18章 秘密が多い私達
昴さんが帰った後の店内。
「安室くんのアタックになびかないのはあの兄ちゃんがいたからか、それなら納得だ」とか
「やっぱりかおりちゃんもイケメンが好きだったのか」とか
「彼なら誠実そうだから問題なさそうだ」とか
思い思いのことを客に言われたが、昴さんに悪い印象を持った人はいなさそうで安心した。
ママに至っては大絶賛だ。
昴さんは人当たりが良い。
昼を乗り越えて夕方になり、客足が途絶え、店内にママと二人きりになる。
「でもかおりちゃんの彼氏は、もっと男臭い感じの子だと思ってたわぁ」
「そうですか?」
「そう。昴くんも勿論いいけどねぇ」
「外面がいいんですよ彼は。家帰ると俺様ですから」
「あらそう!余計な心配だったわね。安室くんと昴くんと、優しい男二人じゃ物足りないんじゃないかと思ってねぇ・・・」
「一人でも充分足りてるのになぁ・・・でも気付かない内に彼に無いものを、安室さんに求めてるんですかね・・・」
「そういうものよ」
「誘われると断れなくて。実は今日もこれから安室さんと会うんです・・・」
「あらそうなの、じゃあもう上がる?後はわたし一人でも大丈夫よ。元々一人でやってた店だしねぇ」
「いえ、片付けまで手伝いますから!」
「いつもありがとうねぇ・・・なんならこれからもココで働かない?もちろん、探偵の仕事を優先してもらって構わないから」
「え?・・・いいんですか」
「昴くんにも言ったけど、かおりちゃんがいるとオヤジ共が喜ぶからねぇ。前より忙しくなったのも本当よ。それに・・・宗介くんもまだ帰ってこないようだし・・・」
「そうなんですよね・・・。あの、ママがいいなら、まだしばらく働かせてほしいです」
そのまま客は来ず閉店時間となり、表の看板をしまおうと外に出ると、零の車がこちらに向かってくるのが分かった。
エラリーの前で停車するその車に近付くと、助手席側の窓が開く。
「こんばんは。かおりさん。もうお仕事終わりますか?」
「今閉める所です。少し待っててください!」
店内に戻ると、ママも彼が迎えに来たのに気付いていて。
「もうここまででいいから。早く行きなさい!」とバックヤードへ背中を押される。
エプロンを外して、サッと化粧を直して、上着を羽織 って、再び店の外に出た。