第18章 秘密が多い私達
いつものように仕事をこなしながらも、新しい客が入ってくる度にドキッとして入口を見てしまう。
何度かそれを繰り返して・・・やっと昴さんがやってきた。
「いらっしゃいませ!」
「カウンターがいいですか?」
「そうですね。どうぞ」
ママを見て、頷くと、ママの顔がパァっと明るくなる。
昴さんが座ろうとする席の目の前に陣取りニコニコと挨拶を交わして。
「これ、よかったら・・・」と昴さんがママに小さな花束を渡す。
「先日退院されたばかりと聞いていまして・・・体調はいかがですか?」
「わざわざありがとうねぇ・・・もうかなり良くなったわぁ」
「いつも彼女がお世話になってます」
「お世話だなんて。こちらがお願いして手伝ってもらってるのよ。それにね、かおりちゃん目当てに来るお客さんもいて前より忙しいくらいよ」
「彼女は愛らしいですからね。接客業は向いていると思います」
「昨日もよ、かおりちゃんを呼んでくれって人が来て」
「ちょっと・・・そんなこと言わなくてもいいじゃですか・・・」
「いいじゃなーい。でも素敵な彼氏くんねぇ。羨ましいわぁ」
店内の空気がなんだか変わった気がする。
常連さんが皆カウンターをチラチラ見ていて。
「でもそんなに彼女目当てのお客さんがいるなら、僕はあまり店には来ない方がいいですかね」
「それは気にしなくて大丈夫よ、いつでもいらっしゃい」
「そうですか、先程からどうも視線を感じるもので」
わたしを気に入ってくれている客がいるのは確かだが、皆わたしを娘のように可愛がってくれているだけだ。
あ・・・娘の彼氏を品定めしているのか。
「ゆっくりしてってねぇ。じきにバタバタするかもしれないけど」
「いえ・・・忙しくなる前に行きます。近頃学会の準備で立て込んでまして・・・今日もこれから夜まで缶詰です」
ママはすっかり昴さんを気に入ったようだった。
まあ、格好良いもんなぁ・・・優しいし。
昴さんが持ってきたお花を花瓶に生けながらふと思った。
わたし・・・彼女だけど彼からお花もらったことない。
別に欲しい訳でもないけど、いや・・・やっぱり一回くらい欲しいかな・・・
しばらく三人で喋り、昴さんはエラリーを出ていった。