第2章 立待月
工藤邸から宗介さんの事務所までは、歩いて十五分程だった。通勤だけで軽い運動になる、良い距離だ。(わたしはそれほど運動が得意ではない)
「おはようございまーす!」
「おっ!来たな、葵」
「今日の予定は?」
「今日の俺の仕事は、新入社員を出迎えること、以上だ!」
「何も無いんですか?わたし、ちゃんとお給料もらえますよね」
「心配するな!忙しい時だってある・・・早速だが葵、これ頼むわ!」
と指された先には大量の紙の山。
「・・・宗介さん絶対溜め込んでると思ってましたよ・・・パソコンはコレ使えばいいんですよね?」
「その通り!俺ちょっと調べもんしてくるから、留守頼む。新規の依頼あったらとりあえず保留にしといてな」
「なんだ、予定あるじゃないですか」
「昼頃には戻るから」
紙の山は調査のメモが大半を占めていたが、未開封の請求書、役所からのハガキ、どう見ても業務には関係の無いチラシまで混ざっていて。
それぞれを分別し、まずはメモの整理から。
手書きのメモをパソコンでタイプして資料ごとにまとめていく・・・相変わらず宗介さんの字は読みにくい。
半年ぶりに見ると、ちょっと懐かしくて嬉しくもあるけども。
おそらく宗介さんは、例の件で出掛けたんだと思う。
詳しくは教えてくれないが、昔世話になった人が突然蒸発した、その原因を作った組織を追っているそうで。
東京に出てきて進展はあったんだろうか。
宗介さんのことを考えていたのに、気付けばいつの間にか沖矢さんの方へ意識が飛んでいて。
昨夜の情事に考えが及び、キーボードを打つ手が止まってしまう。
ちょっと休憩、とお湯を沸かしてコーヒーを淹れる。
頭を切り替えてまた作業に没頭した。
しばらくすると階下から昇ってくる美味しそうな匂いに空腹が刺激されて・・・時計を見れば昼すぎで。
一階の喫茶店の料理の香りなんだろう。
作業も一段落ついたので、事務所内の簡単な掃除をしながら宗介さんを待つ。
すると、思いの外彼は早く帰ってきた。
「帰ったぞ!」
「お疲れ様です!」
「誰かが待ってるって、いいもんだな」
「これから嫌でも毎日いますからね」
「お、なんだか事務所も片付いてる。さすが葵!昼飯行くか。奢ってやる」