第16章 胸に秘めた
「かおり、箸、止まってるぞ」
「秀一さんがあんなこと言うからです・・・ドキッとするじゃないですか」
「ん?もっと言ってやろうか」
「もう十分です・・・」
これ以上言われたら料理の味が分からなくなりそうだ・・・
無事に食事を美味しく終えて、せっかく旅行に来たんだからとお昼に買った地酒を楽しむことにする。
日本酒は久しぶり。しかも秀一さんと飲むのは初めてだ。
テーブルの上は空いた食器だらけなので、窓際に移り。
小さな丸いテーブルに買ってきたものを広げて、またグラスを合わせた。
相変わらず秀一さんはスイスイとお酒を口に運んでいく。
普段わたしは強いお酒はチビチビとしか飲まないけど・・・明日も休みなんだし、せっかく泊まりで来てるんだし。
しかもまだまだ夜は始まったばかりだ。
ついつい、いつもより早いペースで飲み進めた。
窓の外はもうすっかり暗くて。
遠くの方に見える船か何かの小さな明かりをぼーっと眺めていた。
「綺麗だな」
「静かで落ち着きますねー・・・」
「お前のことだぞ」
「・・・秀一さんもしかして酔っ払ってる?」
「俺はこんな量では酔わん」
「へえー・・・」
「だから・・・こっちに来い。もっとよく見せてみろ」
秀一さんの隣に立つと、手を引かれてあっという間に彼の腕の中に閉じ込められ。
膝の上に横抱きにされて、身体中を見られている気がして。
胸が騒ぎ出す。
秀一さんの肩に手を置くと・・・
ずっと触れたかった胸元はもうすぐそこで。
浴衣の襟に手をかけて、開いていく。
いつも見てる身体なのに、無性にドキドキして仕方ない。
浮き出た首筋と、肩に向かって伸びる鎖骨にうっとりしてしまう。
「誘ってるのか」
「なんか・・・触りたくって」
前を肌蹴させると男らしく太い鎖骨も去ることながら、厚い胸板に目眩がしそうになる。
見ているだけで、欲を掻き立てられるというか・・・何とも官能的。
「おい、かおり・・・」
「秀一さんのカラダが誘ってるんです・・・」
抱きついて、鎖骨に唇を付ける。
何度もそこに口付けて、窪みに沿って舌を這わせると、秀一さんがピクリと反応した気がした。