第16章 胸に秘めた
浴槽の縁に座らされ、お湯を肩からかけられる。
抱きしめてほしくて両手を伸ばすと、身体を抱きかかえられ、一緒にお湯の中に沈んだ。
ぴったりと抱きついて・・・もうずっとこのままでいたい。
でもいつまでもという訳にはいかない。
お風呂から上がり、浴衣を着込む。
宿に着いたときに昴さんが選んでくれた、白地に赤い椿の可愛い浴衣だ。
上手く着れたかどうか、鏡の前で何度も確認してしまう。
部屋に戻り、窓際の椅子で寛いでいる秀一さんの横にわざと立つ。
「秀一さん!」
「なんだ」
「どうですか?」
「・・・よく似合ってる」
「よかったー・・・へへ」
「かおり、ビール」
「はーい!」
素っ気ない返事でも嬉しくて顔がニヤけてくる。
瓶ビールとグラスを二つ手にして、秀一さんの元に戻りビールをグラスに注ぐ。
グラスを軽く合わせて、一口。今日のお酒は格別に美味しい。
さっきまで自分のことにいっぱいいっぱいで、ちゃんと見てなかった。
浴衣姿の秀一さんも、中々素敵だ。
濡れたままの髪に、少し開いた胸元がめちゃくちゃセクシーで。
もう少し肌蹴させたくなる・・・のをなんとか堪える。
ビールをゴクリと飲み込むと上下する喉仏も・・・悩ましい。
「どうした、一人で面白い顔して」
「・・・どうもしませんよ」
「そろそろ夕食の時間だな」
「ですね」
程なくして部屋の戸がノックされ。
秀一さんは奥に身を隠す。
なんだか可笑しくて吹き出しそうになってしまう。
昼間と同じ仲居さんが料理を運びに来た。
「ご主人は?」
「あー・・・お風呂です」
「素敵なご主人でしたよね。今日はご夫婦で旅行ですか?」
「はい。あ、でも結婚はまだ・・・」
「あら、失礼しました。でもご自慢の彼氏さんでしょう」
「そりゃあ、もう・・・」
「今日はごゆっくりなさってくださいね」
仲居さんが出ていくと、秀一さんが戻ってきて、夕食だ。
「沖矢は女にモテるな・・・」
「秀一さんの方がカッコイイです」
「そうか?俺は女に好かれる方では無いと思うが」
「いや・・・そんなことないでしょ・・・あんまりモテても困るけど」
「・・・俺はかおりだけだ、安心しろ」
目を見開き沈黙してしまう。
・・・嬉しすぎてせっかくの食事が喉を通らなくなりそうだ。