第1章 米花町2丁目21番地
寝てしまった様子の彼女を横目に、グラスに残った酒を一気に飲み干す。
彼女の白く透き通る、吸い付くような滑らかな肌。俺の手にちょうど収まる、形の良い胸。細くくびれた腰も・・・本当に綺麗だ・・・と思う。
風邪をひいては可哀想なので布団をかけてやり、隣で横になる。
俺もそのまま眠ったようで、次に目が覚めると、早朝だった。
彼女は変わらず横で寝息を立てている。
可愛いらしい寝顔は、昨夜の彼女とは別人のようだ。
まだ起きるには早い時間なので彼女を起こさないようベッドから抜け出し、鏡で自らの顔面を確認する・・・
沖矢の顔は崩れていない。大丈夫だ。
だがこれから毎晩この顔のまま寝るのも辛いかもしれん。
彼女に正体を明かすか?・・・いや、今はまだ早すぎる。
リビングに行けば、工藤夫妻が既に起きていて、優作さんはコーヒーを飲んでいた。
「おはようございます」
「おはよう、赤井くん。随分早起きだね」
「寝る時も沖矢の姿でいるのは初めてだったので、落ち着かなくて」
「寝るときくらいは変装を解いてもいいんじゃないか?」
「かおりさんが一緒だったもので」
「まさか!赤井くん・・・」
「ご想像にお任せしますよ」
「彼女を悲しませるようなことはしないように」
「昨日あのボウヤにも同じ事を言われましたね」
「そうか・・・」
「彼女に、いずれは正体を明かそうと思っていますが、どう思いますか?」
「かおりちゃんが危険な目に合う可能性が高くなる」
「必ず俺が守ります」
「あの子にとって精神的に大きな負担になる」
「その代わりに与えてやれるものもあります」
「随分彼女にご執心のようだね」
「どうしたもんですかね・・・こんな大変な時期だと言うのに俺は」
「まあ、赤井くんに任せるよ」
「そう仰ると思ってました」
やはりあのボウヤは工藤新一の可能性が高いな、と改めて思う。工藤優作と思考回路がよく似ている。
工藤夫妻は、早朝の飛行機でアメリカへ戻るので、間もなく家を出ると言う。
挨拶できなくて悪いが、これからかおりちゃんをよろしく、と去っていった。