第16章 胸に秘めた
「なあかおりさん、ママに僕のこと何か言ったのか?」
二人で食事を取りながら、素になった零が、やはり例のことを聞いてきた。
「・・・わたしと安室さんのことだよね・・・伝えとこうと思ってたんだけど忘れてて・・・ごめん」
ママにわたしと安室透が男女の関係なのをズバリ見抜かれ、違うと言っても聞き入れてもらえなかったことをようやく伝えた。
「僕も朝からいろいろ聞かれて参ったよ・・・一応否定はしたけどあれは全くダメだね」
「ママは韓流ドラマとかの見すぎなんだって。この話してるときすごい楽しそうなのー」
「だな・・・それで休憩はここで取るように言われて。僕は店を追い出された」
「なーんだ、会いたくて来てくれた訳じゃなかったんだ」
「・・・そういうこと言うなよ・・・会いたかったけど」
食事をしていた彼の手が止まり、瞳はこちらを真っ直ぐ捉えている。
「・・・そんなストレートに言われると照れちゃうね」
「だから・・・あんまり可愛いこと言わないでくれ、戻りたくなくなる」
零は視線を落として再び黙々と料理を食べ始めた。
お皿が空になり、二人分コーヒーをいれてテーブルに持っていくと、零に手を取られて隣に座るように促される。
「ちょっ、と・・・誰か入って来たらどう見てもおかしいでしょ」
「入口の鍵は閉めてある」
「えっ?ほんとだ・・・」
・・・そういう問題だけではないのだが。
零にぴったり肩をくっつけられながらコーヒーを啜る。
良くないことをしてるはずなのに。
すごく落ち着いてしまうのはどうしてだろう。
「かおりさん、ちょっとだけ膝貸して・・・」
「零・・・」
所謂、膝枕だ。零が太ももの上に倒れてくる。
断らないわたしもどうかしてる。
サラサラの髪を撫でていると、零の身体が上を向いて。
唇を軽く尖らせてこちらを見上げてくる。
キスして、ということか。
躊躇っていると腕を引かれて急かされる。
・・・ほんとに綺麗な顔。
目を閉じた零に、身体を倒してそっと口付けた。
唇を離すと満足そうに笑う彼が可愛くて・・・
もう一度だけキスをして身体を起こした。
わたしの下腹部に犬みたいに擦り寄って抱きついてくる零の背中を撫でる。
暖房の効いた暖かい部屋。
次第に眠気に誘われて瞼が重くなってくる。