第16章 胸に秘めた
「こないだ言ってた相談のこと?」
「そうだよ・・・なあかおりさん、あんた沖矢昴と付き合ってるんだよな?」
「そうだけど」
「沖矢昴って何者なんだ?」
「・・・何が知りたいの」
「工学部の院生だとか、そんなことじゃなくて。彼の正体についてだ」
「正体・・・」
「沖矢昴って名前が偽名なのはもう調べた。恋人なら、本名も知ってるよな?」
「ああ、そう・・・たしかに昴さんは事情があって本来の身分を隠してる。でもこれは絶対内緒にしてよ?」
「分かってる。で、本当は誰なんだよ」
「それは教えられない」
「赤井秀一・・・昴って人の正体は赤井秀一じゃないのか?」
「・・・誰?それ・・・」
「ボクの一番上の兄だ」
「一番上の・・・?この前亡くなったって言ってなかった?」
「そう、聞かされてるけど・・・信じられないんだ。秀兄は・・・死ぬ訳ないんだ」
「じゃあ、昴さんに何かあるんじゃなくて、そのお兄さんを探してるんだね」
「そうだ。でもなんとなく、昴って人、見た目は全然違うのに、なんとなく秀兄に似てる気がするんだ・・・」
「似てるの?お兄さんって、どんな人なの?」
真純ちゃんから秀一さんの話を聞く。出てくるのは知っていることばかりだが。
昴さんと秀一さんの見た目で共通してるのは、左利きなのと背格好くらい・・・?
あとはたまに出る言葉の言い回しとか?
でも真純ちゃんは昴さんとそんなに喋ったことはないはず。
血縁者ならではの“何か”を感じ取ったんだろうか。
「お兄さんは、たしかに昴さんと似てるかもしれないね・・・」
「だろ!?」
「でも似てるっていうのは境遇の話で・・・昴さんも身を隠してる間は、家族に会いたくても会えないみたいだから」
「家族にくらい、会ってもいいんじゃないのか?」
「家族が、一番会っちゃいけないんだよ・・・」
「なんでだよ・・・」
「一番、敵に狙われやすいから」
なんか、涙が出そうになってきて。声の端々が震えそうになるのをなんとか抑えた。
「でも世良ちゃんのお兄さんって、すごい人なんでしょ?死ぬ訳ないんでしょ?生きてたら、必ず帰ってくるよ」
真純ちゃんは、“沖矢昴=赤井秀一”だと決め込んでるようだった。
こんなことしか言えなくて・・・どうしてあげることもできなくて、胸が苦しいけど。