第16章 胸に秘めた
今日は初めて、エラリーにママと二人で立つ。
開店準備もそこそこの内から、ママの復帰を聞きつけた常連のおじさん共がわんさか駆け付けてきて。
やっぱりここはママのお店なんだな、と改めて感じながらせっせとコーヒーを運んだ。
客足も落ち着いてきて、ママとカウンターの中で座って喋っていると、思いもよらないことを聞かれる。
「かおりちゃんは、安室くんとかなり仲良くなったみたいねぇ」
「・・・はい。しばらく一緒に働かせてもらって」
「それだけじゃ、ないでしょ?」
「それだけって・・・?」
「マスターや梓ちゃんには分からないかもしれないけど・・・わたしにはあなた達は男と女の関係に見えたわ」
「そんな・・・わたしお付き合いしてる人がいるんですよ」
「別に責めてる訳じゃないのよ。結婚してるんじゃないし、若いうちはたまにはそういうことがあってもいいと思うわぁ」
「いやいや・・・良くないですって」
「だって、安室くんだもんねぇ・・・誘われたら断れないわよねぇ」
ママはもう、何を言っても聞く耳持たずといった感じで。
「・・・もうご想像にお任せします・・・けど誰にも言わないでくださいよ?」
わたしが“安室透”と接しているときの態度は前と何も変わっていないはずなんだけど・・・
何か空気が違うんだろうか。気を付けよう・・・
「で、彼氏はどんな人なの?」
「そのうちエラリーに遊びに来ると思います。そのときに紹介させてもらいますね」
「やっぱり安室くんとは全然違うタイプ?」
秀一さんは安室透とは対極的だけど、昴さんは・・・えーと・・・
「まあ、そうですね」
「そういうもんよねぇ。ふふっ」
女っていうのはいくつになってもこういう話が好きなんだろうか。
零のことや秀一さんのことではなく、安室さんと昴さんのことしか話せないから、わたしはモヤモヤしてしまうけど・・・
そこで来客があり、真純ちゃんが入ってきた。今日は一人みたいだ。
「世良ちゃん!いらっしゃーい」
「かおりさん、ちょっといいか?」
ママに許しを得て、一番奥のテーブルに二人で座った。
さて。この子は何を切り出してくるのか。