第15章 雪の中の
タクシーを走らせ、たまに方向を指示しながら、安室透は時折後ろを気にしている。尾行がないか確認してるのか。
梓さんを降ろしてから、ずっと繋がれたままの右手に視線を落とす。大きくて、綺麗な手。
振りほどこうと思えばできるはずだけど。
タクシーを降りるまで離すことはなかった。
結局着いたのは少し見覚えのある場所で。
「ここが、一番安全だからな」
「だってここって・・・」
「一番気が抜ける場所だ」
「そうかもしれないけど」
もう一度手を繋がれて、マンションの中へ連れていかれる。
二次会は零の家だそうだ。
否が応でも、何かあるんじゃないかと考えてしまう・・・
この前と変わらず綺麗な部屋に通され、わたしはもう慣れた足取りで冷蔵庫からビールを取り出し、ソファに座る。
零は何やらおつまみを作ってくれるそうだ。
「かおりさん、セロリは好き?」
「普通・・・?まあ好きな方かな」
「良かった・・・僕は毎日食べたいくらい好きだから」
「珍しいー・・・」
ものの数分で出来上がったのは、セロリの和え物だった。しかも、物凄く美味しい。ビールにピッタリだ。
「おいし・・・どうやって作ってるの?」
「簡単だよ、サッと茹でてごま油と塩コショウで和えるだけだ」
「いやでもほんと美味しいよ。わたしもセロリ好きになりそう」
「かおりさんが白ワインを選んでたら、ごま油をオリーブオイルに変えるつもりだった」
「あ、それも良さそう!今度やってみる!」
零がピッタリと隣にくっついていることに、もう何も違和感を感じていないことに気付いた。
今日はコロンボでもタクシーでもずっと隣だったからか。
それとも単に慣れただけなのか。
「ママが復帰するのは喜ばしいことだけど、かおりさんと二人で仕事することがなくなるのはやっぱり寂しいかな」
「わたしも少し寂しい、かも」
「すごく好きな時間だった」
「へー・・・今こうやって二人でいるよりも?」
「それはまた別。今は降谷だから」
「あ、なるほどね」
零の手が髪に触れて、スルスルと指を通される。
そちらを向くと、唇が少しだけ重なって。
繰り返す度に長く、湿ったキスへと変わっていく。
あっという間に身体が反応し始めた。