第12章 白妙の策略
数分後、着替えたらしい零が現れた途端、わたしの思考は停止する。
目が点になるとは、多分、今のわたしの表情のことである。
「零・・・すごい、似合ってる、ね」
彼は細身のスーツを綺麗に着ていて。
わたしはスーツ姿の男性が大好物なのだ・・・
(ただしイイ男に限る)
「かおりさん、どうかした?」
「してるかも・・・零が、かっこいいから・・・」
「ははっ・・・もしかして、スーツが好き?」
「・・・いつもこれだったらいいのに」
「喫茶店のバイトがこれじゃおかしいだろ」
「そうだけどさ・・・もう、行くの?」
「ああ、今日は警察庁だ」
「・・・早く帰ってきてね」
「努力する」
零との間合いが縮まり、あと一歩近付いたらキスするかも、なんて思った瞬間、脳裏に蘇ってきた記憶。
真顔に戻って伝言があることを伝える。
ベルモットに関してのFBIの見解だ。
わたしは零に見蕩れて脳ミソまでやられてしまったのか。
本当に忘れる所だった。
それは零も把握していなかった情報のようで、少しは役に立てたかもしれない。
「絶対かおりさんには危険が迫らないようにするから・・・」
強く抱きしめられる。
「お願いします・・・」
腕の力が弱まると、自然と唇が重なって。
時間が止まったみたいだ、そのまましばらく動けずにいた。
本当に零のキスは・・・恐ろしい程心地良い。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「何かあったらすぐ風見に連絡しろよ」
「うん」
「僕が出たらすぐ鍵全部かけろよ?」
「分かってるって」
「じゃあもう一回だけ・・・」
またたっぷりと唇を合わせて、零は出て行った。