第1章 米花町2丁目21番地
軽めのビールをグラスに注ぐ。もちろん沖矢さんの分も。
リビングでは温められたスープかソースか、美味しそうな匂いが漂っている。
テーブルの上は既にシェフ達が夕食のセッティングをしているので、ソファで飲みましょうか、と移動する。
三人掛けと思しきソファのど真ん中にわざと座ったであろう彼は、隣にどうぞ、と言わんばかりの態度でこちらを見ている。
必然的に隣しか空いてないので、そこに座る。
肩が触れそうな距離にまた心臓が煩くなりかける・・・
「一度ちゃんとお聞きしたかったのですが」
「はい?」
「かおりさんには今特定の男性はいませんよね?」
「いませんよ。沖矢さんこそどうなんですか?若くて可愛い女子大生から誘われたりしませんー?すごいモテてそう」
「残念ながら工学部は男ばかりですからね、でも、いいんです」
沖矢さんはわたしの耳元に顔を寄せると、続けて囁く。
「もうすぐ特別な関係になるかもしれない女性と、今日出会いましたから」
そう言ってわたしの髪を撫でるように触る。
「・・・それって、あの、」
「かおりさんのことです」
「それは、嬉しいです、ありがとう、ございます」
「随分棒読みですね」
「いや、周りに人もいますし・・・」
「誰も聞いてませんよ」
「でもコナンくん、ずっとこっち睨んでます」
「彼は、いいんです」
「子どもだから?」
「なかなか物分りのいい子ですからね」
コナンくんは頭に手を当てて、子供らしくない難しい顔をしている。
と、そこに綺麗でよく通る女性の声。
「ただいまー!帰ったわよー!」
有希子さんのご到着だ。