第10章 彼らの秘密
「お前ならこの文字を並べ替えて何と読む?」
U M A S C A R A
秀一さんに、アルファベット八文字を見せられる。
「ユーマスカラ、な訳ないですよね、うーん」
「CAは“か”としても読むのかもしれん」
「お酒のラムの綴りってR、U、Mですよね?」
「そうだ」
「アサカ、ラム?」
「そうなるよな」
そう読むのなら、十七年前現場から忽然と姿を消した“浅香”という人物がラムなのか・・・?
そもそも年齢も性別すらも分からないこの浅香という人物。
羽田浩司と一緒に殺された女性の、ボディーガードだったそうだけど。
当時既に成人していたと仮定すれば、現在は三十代後半以上の年齢か。
でも当時の警察が長年捜査しても分からなかったものを今になって簡単に見つけられるのか?
ドラマじゃあるまいし。いくら秀一さんやコナンくんが凄くたって。
謎は解けたようで深まるばかりだ。
「そんな難しい顔してると、可愛い顔が台無しだな」
突然そんな事を言われる。
「秀一さんが考えろって言ったんでしょ」
ちょっと腹が立ったので、わざと機嫌悪そうに脚も腕も組んで、そっぽを向く。
「おい怒るなよ・・・今日は、あれだ。かおりの好きなもの、食べにいくか?」
期待通り、秀一さんはわたしの機嫌を取ろうとしてくる。
でも、まだ足りない。黙ってムスッとし、何も無い空中を睨む。
「なんでも食っていいし好きなだけ飲めばいい」
「そこまで言うんなら、仕方ないですね・・・行きましょう!」
今度は、満面の笑みで喜ぶ。
「お前はなぁ・・・」
かくして、秀一さんの奢りで好きなだけ食べて飲める権利を得たわたしは、エラリーの常連さん達に評判の、近所の居酒屋に来た。
中年の夫婦がやってるらしい、小さなお店だ。
(もちろん秀一さんは沖矢さんの格好。そして、寿司屋やレストランに連れていけと言う程わたしも鬼ではない)
二人でテーブル席に座り、メニューを開くとある文字が気になる。
「からすみれんこん・・・」
「頼みますか?」
テーブル席にいるのはわたし達だけで、カウンター席は常連と思しき客達でガヤガヤしており、誰にも聞こえないだろうと思い、言う。
「いや・・・さっきの“A”がひとつ“I”だったら“からすみ”だなって」