第10章 彼らの秘密
「かおりさん。やっと来てくれましたね」
ニコニコと安室透用の笑顔を貼り付けている零と、暫く目を合わせたまま喋る。
「急に暇ができちゃって」
「沖矢さんは?」
「コナンくん達と出掛けました」
「へえ・・・先程コナンくんが血相を変えて走って出て行ったのは・・・沖矢さんの所だったんですか・・・」
言うんじゃなかった、と後悔する。
先程の女性がお水とおしぼりを運んできて、隣に立つ。
彼女は榎本梓と言い、ポアロの看板娘らしい。
「やっとかおりさんに会えましたね!嬉しいー!」
「そんなに喜んでもらえるんならもっと早く顔出せばよかったね」
「安室さんからよくかおりさんのお話は聞いてて。どんな人なのか楽しみにしてたんですよ!もう安室さんたら・・・」
「梓さん、やめてくださいよー」
見た事のない照れたような顔をした零が、彼女の話を遮った。
梓さんはわたしと安室透とを交互に見やり、ふふっとにこやかに笑ってカウンターの中へ入って行く。
「安室さん、変な事は喋ってませんよね?」
「もちろん。安心してください」
とりあえずコーヒーを注文したら、安室透の手作りスイーツまで付いてきたので、一緒に頂く。
(美味しいのはもう、言うまでもないだろう)
ちなみにポアロのマスターは奥さんであるエラリーのママのいる病院へ見舞いに行っているようで、もうすぐ帰ってくるそうだ。
客もいなくなった店内。
梓さんは「ごゆっくりどうぞー」なんて言ってバックヤードに引っ込む。
「別に二人にしなくてもいいのに」
小声で零と会話する。
「彼女は、僕がかおりさんに絶賛片思い中だと思ってるんです」
「なにその設定」
「いいじゃないですか。僕はこの設定を楽しんでますよ?」
・・・零は頭の作りが常人とは違うんだろう。良い意味でも、違う意味でも。
そこに、カランカランと入口のドアが開き、マスターが帰ってきた。
気付いた梓さんも奥から姿を現した。
入院中のママの状態はかなり良くなったらしく、そろそろ退院できるそうだ。
でも前程は動けないから、一人ではエラリーを開けられないかもしれない、とのこと。
それなら、わたしか安室さんのどちらかがこれまで通り手伝いますよ、ということで話は落ち着いた。