第9章 今夜の予定は?
ここには“愛”なんて無いはずなのに。
名前を繰り返し呼ばれ、キツく抱き締められて、何度もキスをしているうちに、彼を“愛おしい”と思っている自分の感情に驚いた。
けど、その気持ちには蓋をして、気付かなかったことにする。
わたしが愛しているのは、秀一さんだ。
零とは、気の迷いで遊んでしまっただけだと頭に叩き込んで眠った。
翌日、まだ外が暗い早朝、零に起こされた。
寝足りない身体をなんとか動かし、シャワーを浴び、いそいそと準備をして、零に家まで送ってもらう。
「・・・やっぱりまだ帰したくないな」
「だったらなんで起こしてくれたの。助かったけど」
「僕はかおりさんとの約束は必ず守る」
「零って・・・変にマジメな所あるよね」
「マジメな男は嫌いか?」
「まさか。いいと思うよ」
家に着くと、秀一さんの車も無いし、家も真っ暗。先に帰ってこれたんだろう。とりあえず安心した。
「今日、ポアロに遊びに来なよ、ポアロの皆もかおりさんに会いたがってるし」
「わたしだって暇なりに仕事あるんだけど」
「コーヒーくらい」
「・・・そのうちね」
「ふーん・・・」
「そんな顔しないでよ・・・」
わざとらしく拗ねる零を見て、ふいに胸がキュンとしてしまった。
そんな気持ちには、なりたくないのに。
それでもやっぱり、別れ際にはキスを何度も交わしてしまって。
誰も見てはいないだろうけど、気持ちを切り替えて家に入る。
念には念を入れてだ、自分の身体に盗聴器が無い事を確認して、各部屋も一応チェックする。
何も無い。そしてもちろん、家には誰もいない。
この広い家に一人きりになるのは、初めてだった。
もし秀一さんと暮らしてなかったら、毎日寂しかったかもしれない。
今の今顔を合わすのはさすがに気まずいけど、早く帰ってきてほしい・・・早く会いたい。
あと少しだけ眠ろうと、自室でパジャマに着替えると、フラフラと部屋を出て、秀一さんの部屋へ入った。
まっすぐベッドに向かい、彼の布団に包まる。
かすかにする秀一さんの匂いに、心まで包まれたような気がして・・・すぐに眠りに落ちた。