第1章 こども
教室のドアのところに立っていたのは有ちゃんだった。
有ちゃんが立っていたのだ。
他のだれでもいいから、先生でもいいから、有ちゃんだけは立っていてほしくなかった。でも有ちゃんだった。
「帰らないの?ヨシくん」
有ちゃんはゆっくりとボクの方に歩いてきた。
「あ…う…かえるよ…」
「笛、落ちたよ」
「あ、うん…あっ、さわらないで!」
有ちゃんが笛を拾おうとしたから、ボクはあわてて有ちゃんよりすばやく笛を拾った。
よかった。笛ゲットだ。
有ちゃんはその間に、いつの間にかゆかに落ちていた笛ぶくろを拾い上げていた。
あっ、あっ。
マズイ、バレた。
なんで笛ぶくろ落としちゃってるんだ。バカバカバカ、ボクのバカ。
笛なんかみんないっしょなんだから、拾われても「ボクの笛だよ」って言えばよかった。
でも笛ぶくろはダメだ、有ちゃんの名前書いてあるもん。
バカバカバカ、ボクのバカ。ボクは本当にグズでのろまでぶきっちょだ。
笛ぶくろを拾った有ちゃんは、ふくろを見つめると、少し目を丸くした。
「これ…私の笛?」
有ちゃんの声は静かだった。
ボクはこわくて、あとはずかしいから、ずっとうつむいてた。