第1章 こども
有ちゃんはとてもかわいい。
かわいくないって言う子もいたけど、ボクはかわいいと思う。
やさしいし、よく笑う。
ボクはグズでのろまでぶきっちょで、よくみんなにバカにされるけど、有ちゃんだけはボクにやさしい。
だからボクは有ちゃんが好きだった。
ずっと、「好きだよ」って言いたかった。
でも全然言えなかった。
ボクはグズでのろまでぶきっちょだから。
有ちゃんは校区がちがうから、中学生になったらはなればなれなんだってさ。
きっとボクはもう二度と有ちゃんに会えないんだ。
そう思ったらすごく悲しかった。
だからやっぱり告白しようとしたんだけど、でもやっぱりできなかった。
ボクはグズでのろまでぶきっちょだから。
だから、有ちゃんの笛を、なめることにしたんだ。
人の笛なんて、本当はなめたらダメだ。
でも、ツヨシくんとアキラくんがこの間言ってたんだ。
「となりの組の◯◯が、△△の笛をなめたってさ」
「□□もやってるよ」
みんなやってる。
だからボクも、いけないことなのはわかってるけど、でもやることにした。
卒業する前に、1回だけ。1回だけだから。