第1章 きつねの窓
「す、すいません。ちょっと、祐介離してよ」
「いや。俺はお前を生涯離さない!」
「そうじゃなくて!」
「はぁ・・・お熱い事で。ったく・・・お前の友達だろ?アレ何とかしろや」
カウンターの奥の流しで皿洗いをしていた蓮に全てを丸投げした惣次郎は煙草の箱を片手に店の外へ出て行ってしまった。
取り仕切りのパスを無理矢理押し付けられた蓮はエプロンの端に着いた洗剤の泡を払いながら苦笑している。
抱きしめたままの態勢で祐介が芽衣子について滔々と語りだした。
見た目がいかに好みであるか、芽衣子の美点、私服のファッションセンス、更には口調についてまで。
「いい加減に・・・しろっ!」
恥ずかしさ全開の芽衣子は渾身の力で祐介の左頬を捻り上げる。
流石に物理攻撃には弱いのか、うめき声をあげる。
それでも尚も芽衣子を離すまいと抱きしめ続ける祐介。
芽衣子の視界には、どうしようもなくその場で苦笑を続ける蓮が映る。
ふと芽衣子は祐介がとても幸せそうな顔を浮かべている事に気が付いた。
―こんなに大切にされるのなら、いつまでも一緒も良いかもしれない―
芽衣子の心に小さく膨らんだ感情は、誰にも気づかれずにコーヒーの香りと共に祐介の身体にそっと降り注いだ。