第1章 きつねの窓
「は!?パピルス文書・・・!?」
目の前の男、喜多川祐介が唐突な事を言いだすのは今に始まった事では無い。
が、想定の範囲を軽やかに飛びぬけた彼の発言に芽衣子は目を丸くした。
「知らないのか?歴史の授業で少しやったと思うが」
芽衣子の驚きの表情をも斜めに受け取る祐介。
「知ってるよ!知ってるけどさ。・・・まさかそれ、見に行くの?」
「あぁ。これを見てくれ」
そう言って突き出されたB4サイズ程のパンフレットは英文で書かれていた。
知っている単語を拾いながら芽衣子がそれを読む。
どうやらエジプトの首都で大規模な歴史の展示会があるらしいことは辛うじて理解できた。
「今の俺に必要なインスピレーションだ。本当はすぐにでも出発したいところなんだが、どうしようにも資金が無くてな。」
そう言って皺の寄った眉間に指を添える祐介。冗談で言っているわけではないらしい。
芽衣子には心当たりがあった。
遡る事、数週間前。
今は仲間として怪盗団の一員である佐倉双葉のパレスに侵入した際に、ピラミッドを思わせるその心象風景を前に祐介はしきりと指で窓を作り、アングルを変えては一人で何やら呟き続けていた。
他の怪盗団のメンバーよりも少しだけ祐介と付き合いの長い芽衣子は、一見冷静に見えるこの男が内心で狂喜乱舞している事を密かに理解していた。
尤も、祐介の方でも感情を押し殺している訳ではなく、極端にそれが表情に出にくいからではあったが。