第4章 一寸混ざった、世界のお話
車に乗り込むと、中也はエンジンを起動させながら狐の方に向かって云った。
「手前、彼処に彼奴が居ない事知ってたろ」
「そうだねぇ。気配はないとは思っていた……けど」
「……けど、なんだよ」
「…………いや、何でもない」
「……?」
また少し黙り込む狐に疑問を抱くも、それ以上、その事に関して訊くことはしなかった。
「で、手詰まりだから適当に探すぞ」
「うん。何か心当たりはあるのかい?」
「手前は気配とやらを追えないのかよ」
「うーん…ここ最近は殆ど会っていなくてねぇ」
「……何時ぶりだ?」
「年月にしたらほんの少し程度だろうけど、纏う空気が変わってからは一度きりなのだよね。それにこちら側で会ったことがないから朧気で難しい」
「……そうか」
恐らく武装探偵社に入ってから、本気で逝き掛けた自殺まで行っていなかったのだろう。
何故か、その事に安堵した中也。
そして、ハッとして頭を振る。
俺が太宰を心配ーーー?冗談だろ
その考えを切り捨てたいがために、中也は口を開いた。
「この天気だ。彼奴は川を流れてる可能性が高い」
「川を?なんでまた」
「入水自殺は奴の十八番だ」
「……変な趣味を持ったねえ」
「それに関しちゃ同意見だ」
「もしかしなくてもよく『三途の川』に遊びに来てたのって」
「十中八九、彼奴の自殺趣味のせいだな」
はぁ、と呆れ気味に息を吐く狐を不思議そうに見る中也。
「知らなかったのかよ」
「知らなかったとも」
「でも手前は三途の川で、よく会っていたんだろう?」
「彼処は此岸と彼岸の狭間ーーー云うなれば君達の此の世界と我々の彼方の世界が少しだけ重なった一番近い場所なのだよ。だから………遊びに来てくれたいるとばかり思っていた」
あからさまにしょんぼりする狐に中也はこそりと一息着く。
「まあ、その可能性も零じゃねえだろ」
「え?」
「昔、手前の話をよく聞いていた。現実主義者の彼奴が手前の存在だけは嘘だと思ってなかったっつー事は、確かな存在だと認識するために故意に会いに行っていた可能性が高いな」
「だとしても『正しい方法』じゃなく入水自殺未遂なんて笑うに笑えない」
呆れた声で云う狐。
きっと此の狐が重ねている奴は、そんな奴ではなかったんだなと、中也は新たな情報を胸にしまうのだった。