第4章 一寸混ざった、世界のお話
色々考えた中也だったが、考えても仕方ないという結論に達したため、とあるビルジングに向かうことにした。
隣に乗っている狐は窓の外を眺めて、楽しそうにしている。
「この自動車とかいう乗り物、速いねえ」
「そうかい」
ドライブ中に、あれは何だい?等と質問され続けたが
不思議と面倒だとか嫌だとかいう感情は湧かなかった中也は、目的の場所に到着を告げる事に少し寂しささえ覚えた程だった。
こうしていると子供みたいなやつだなーーー
「ほら、降りるぞ」
「はぁい」
扉を開けることなく、するりと降りてきた姿に、流石に驚きはしたが、自分以外の周りには狐の姿は見えてない事を思い出して中也は何とか冷静を保った。
「此処かい??」
「ああ、大人しく勤労に励んでいりゃ、な。」
「……ふぅん」
腕を組み、耳をピコピコ動かしている狐の考えていることは何一つ分からないが、取り敢えず目的の場所ーーー「武装探偵社」の事務所へと向かったのだった。
「まあ、歓迎される訳ねェよな」
扉を開けるなり、一斉に此方に殺気だす社員たち。
どうやら上から観ていたのだろう。
中也は溜め息を1つ付くと口を開いた。
「なにも戦闘に来た訳じゃあねえんだ。その殺気をしまってくれ」
「では、何の用だ」
冷静だが、警戒を忘れずに社員である国木田独歩が話しかけてきた。
「太宰に用がある。彼奴は居るか?」
「「「「………。」」」」
そう訪ねると、少し困ったような空気に変わり始める。
そして、警戒しつつも申し訳なさそうに口を開いたのは中島敦だった。
「太宰さんは、『今日も良い天気だねえーあ、彼処の美人さんが私を呼んでいる!』等と宣って出ていったきり帰ってきてません」
「相変わらずの放浪者だな。で、そりゃいつ頃の話だ」
「昨日の昼頃です」
「今日の話ですらねえのかよ。苦労してンな、お宅等も」
中也の呆れ声に、ははは、と乾いた笑いが数ヵ所で起きる。
クルリと扉の方に向かう中也。
「なっ、おい?!」
「邪魔したな」
「何しに来たんだ、一体!」
「だから最初に云っただろ?太宰の糞野郎に野暮用なんだよ」
「…本当にそれだけか?」
「ああ、本当にそれだけだ。争う気も毛頭ねぇよ」
「…そうか」
それだけ会話が終わると、中也は今度こそ事務所を後にしたのだった。