第4章 一寸混ざった、世界のお話
「………済みません首領。もう一度、宜しいでしょうか」
一日の内で太陽が高い位置にある時刻。
簡単に入室を許されない部屋。
中原中也は入室のために脱帽した帽子を持つ手に少しの力を込めながら、この時間にする話としてはあまり相応ではないようなーーー。
告げられた言葉を理解できずに部屋の主に聞き返した。
部屋の主ことポートマフィアの首領である森は、「まあ、うん。そうだよねぇ」と苦笑してもう一度口を開いた。
「ウチでも贔屓にしている○○氏の別荘が怪奇現象に悩まされているらしくてねぇ……」
「………。」
聞き間違いじゃあ無かッた……。
そんな事を考えている中也の反応を、森は苦笑しながら見ていた。
「……具体的にお訊きしても?」
「白い何かが廊下を通る、足音が聴こえる、笑い声がする、物が僅かに動いている……等々、怪奇現象の典型的なものばかり起こるようだ」
「……。任務はその原因を解明する、で宜しいでしょうか」
「否、原因は判っているのだよ」
「え。」
予想外の返しに、思わず繕わない声が漏れた中也は、しまった、という顔をしたが森は笑って許した。
「別荘を建てる際に、寂れた社のようなモノを取り壊したらしくてね」
「……。」
絶対にそのせいじゃねえか、等と中也は声に出すことなく首領の言葉の続きを黙って待つ。
「その社に唯一あった『鏡のようなモノ』を保護……というか持ち帰ってきちんと祭るように飾っているそうなのだけどね」
「……鏡ではなく『鏡のようなモノ』?」
ポツリと疑問を口にすると森は其れを拾ってこくりと頷いた。
「鑑定士の話では古代の鏡で間違いないだろうとの話なんだけどね。長年放置されていたからなのか、表面が煤汚れのような色をしていて全く何も映さないようなのだよ」
そう云うと、中也に何かを差し出す。
其れを受け取ると直ぐに確認する。
「……。」
受け取った一枚の写真には、鈍色をした楕円形のモノが写っていた。
………確かにこの写真を写した人物の影さえも映していない。
それにーーー………。
「この写真、お借りして宜しいでしょうか?」
「勿論。君にあげるために用意したものだからね」
ニコッと笑って許可した首領を確認して、中也は写真を懐に仕舞った。