第3章 一寸先の、未来のお話
凡てを片付けて探偵社に帰る途中、太宰の通信端末が鳴り出した。
普段なら面倒臭そうに出ない、という選択を取ることもあるのに直ぐに出たのだ。
「もしもーし」
直ぐに出たわりには相手が最初から判っていたかのように軽い感じで声を発する。
何度かの相槌をうち「そう、お疲れ様」と云った限り、相手は恐らく妹なのだろうと敦と国木田は考えた。
「え、ほんと!?行く行く!何処に居ればいい!?」
突然話が変わったのだろう。明らかに声のトーンが変わって話し始める。
ーーー普段の太宰からは見られないほど、無邪気な姿に敦も国木田も少し驚く。
「判った!また後でね!」
そう云って通話を終了すると、太宰はクルリと二人の方を振り向いた。
「私、今日は外食だからここで失礼するよー報告書は明日書くからー…………多分!」
「へ?!ちょっ……太宰さん!?」
そう云って、ダッ!と駆け出していった太宰に戸惑い、引き留めようとした敦だが国木田に制止される。
「いい。敦も疲れただろう。社に戻ったら直ぐに帰っていいからな」
「有難うございます社長!」
帰りを待ってくれているだろう他の社員に無事に解決したことを告げるべく敦と国木田は少し速歩きになったのだった。
ーーー
太宰が歩いているとスイーッと車が一台近付いてきた。
それの後部座席に迷わず乗り込む。
「やあ、先刻ぶり~」
「其方の方は終わったかい?」
「うん?お任せしてきたけど?」
「大丈夫なのかい?其方の社長は納得しない内容だとバレたのだろう?」
「大丈夫だよ。ウチの社長も柔軟になったからね」
「それならいいけど」
「いや、全然よくねえよ!」
「「うん?」」
二人の会話に漸く運転手が口を挟んだ。
「突然寄れって云ったかと思えば太宰拾う羽目になるなんて聞いてねえよ」
「良いじゃないの。めでたく一緒に解決したんだから」
「別にめでたくねえよ」
「でもちゃんと三人で予約してくれてるじゃない」
「……。」
紬に一本取られて黙りこむ運転手こと中也をケラケラと元凶である太宰が笑う。
「優しいねえ中也君」
「ああ!!うるせえ!黙れよ、もう!」
こうして楽しく三人で予約していた蟹料理を食べに向かうのであった。