第2章 屯所
「ねぇー?」
「なに?総司ー」
平和な昼下がり、沖田は縁側に上半身を預けながら団子を頬張る。
長い髪の毛はたおやかに結ばれて着流しだった。
女性のような身体のラインだが、彼はしっかりと元服した男である。
いつかのように小さいからとからかわれることもなく、逞しくなっていた。
返事を返した隣にいる《夢見の巫女》はと言えば姿形はそのままに、少女のままである。
黒々とした髪の毛は今は結われていて腰元までにて留まっているが、纏めた其れをほどけば床を引きずる長さになっていた。
の身請け人…形はだが…であるここ新撰組の副長、土方歳三は彼女の長い髪の毛を「巫女らしいから」ととても気に入っていて、切るに切れなくなってしまった。
「土方さんとどうなんですかぁ」
「どうということもないのだけど…変かしら?」
「変ですねー土方さんのおつむの中が」
「ふふふ…そっか」
「あの人…本当に何を考えてるのかな」
そう。土方とには本当になにもなかった。
身請けしたといっても祝言などはしておらず、は彼の目の届く所へ何時も居て、町へ出掛けたいと彼女が言えば古株の誰かを必ず供につけたし
土方自身が付き添うこともあった。
大切に彼女を想っているのは明らかだったが
其所をつつくと土方はばつが悪そうに話を変えたのだった。
そこまでにあの土方が大切にするものだから、なんだか恐れ多くて昔馴染みしかには話し掛けようとしなかった。
今も彼女は夢を見る。
昔のように…細かく…細部までを。
しかしどこまで言えば良いのか、どう言えば未来が変わるのかはまだわからないままであった。
彼女は未来を変えたいのだ。
隣にいる彼だって
救いたいのだ。
「お盛んだった土方さんが懐かしいですよー私は。今の土方さんお堅すぎますからね」
そう総司が軽くため息をつくと後ろの襖が開きボサボサ頭の土方がぬっと現れた。
「総司…」
「あれ?まだ起きないと思ってたのになー!またあとで!」
沖田は俊足で噂話の張本人から逃げたのだった。
「あいつ…好き勝手言いやがって…ホントに小憎たらしい餓鬼だ」